寝たきりでも仕事ができる時代へ―分身ロボットが作り出す“役割”と“居場所”
――カフェでOriHimeを遠隔操作するパイロットの反応はいかがですか? 吉藤オリィ: 20代の寝たきりの男性から「働いた後の風呂って気持ち良いんだな」と言われました。「スケジュール帳を6年ぶりに買いました」と言われたのも、心に残っています。ずっと入院しているから、これまではスケジュール帳に書き込む予定が何もなかったけど、カフェのシフトが入っている日をスケジュール帳で確認することがすごく自分の生きがいになったと言っていました。 また、「自分で稼いだお金で家族にプレゼントを贈ることができる」という人もいるし、「自分の“推し”を自分のお金で推せる」という人もいますね。これは外出困難者がカフェで働き、お客さんと接すること、それが社会での居場所・役割となり喜びにつながっているということだと思います。
私たちの体はいつか動かなくなる――コロナ禍を機に「身体至上主義」の社会を変えたい
――オリィさんは、分身ロボットを通して社会とのコミュニケーションのあり方や考え方を変えようとなさっていますよね。 吉藤オリィ: 車いすで走ることが向いていない場所が山程あることからも分かる通り、この世の中は体が動く人を前提にデザインされている「身体至上主義」の社会です。私はALSなどで寝たきりの友人が多いのですが、彼らは毎日外に出るだけでもすごく大変です。車いすで外に行くとジロジロ見られる気がする。移動に誰かの介助が必要。駅員さんの手を借りないと電車にも乗れない。誰かに迷惑をかけたくないから、家でおとなしくしていようという発想になってしまいがちです。彼らがあまり外に出ていないことで、われわれが日頃そういった人たちと出会う機会が少ない。彼らの存在をあまり意識していないから、身体至上主義の社会に違和感がなくなってしまっているのです。 でも、われわれも将来寝たきりになるときが来る。いつまでも健康で長生きをすることも大事なのですが、その体がいつか動かなくなって寝たきりになった時のことを考える人は誰もいない。それを一緒に考えることができるのが、彼ら寝たきりの先輩たちなんです。 「みんなで障がい者のことを考えよう」と言っても、自分ごとのように考えるのはなかなか難しいでしょう。だけど、たまたまオンラインで友だちになった人がALSだったという場合なら、相手のことを理解しようとするはずです。寝たきりの先輩方と友人になってその人たちのことを知るようになると、自然と障がい者への理解が深まるのではないかと思います。コロナ禍で世の中の人全員が外出困難になったからこそ、身体至上主義の社会をどう変えていけるかを考えられる機会なのではないでしょうか。