「はい、論破!」で何もかも切り捨ててはいけない。麻木久仁子が考える政治・社会への個人発信
バラエティ番組だけでなく、ニュースキャスターや情報番組のコメンテーターとしても活躍してきた、タレントの麻木久仁子さん。昨今、マスメディアやSNSに触れる中で「情報を発信することも受け取ることも難しい時代になった」と感じているそうです。マスメディアやSNSを通じて与えられる選択肢を疑うことの重要性や、「はい、論破!」で片づけられがちな今の風潮について語っていただきました。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
情報を発信することも、受けることも難しさを感じる時代になった
ーー日本のメディアでは、「タレント」と「政治的・社会的発言」は相性が悪いと思われがちです。これについて麻木さんはどう感じますか? 麻木久仁子: 昔はニュース番組に出る人はニュース番組に出る人、バラエティ番組に出る人はバラエティ番組に出る人、と役割が分かれていました。ただ、私が30代になった頃から、その垣根がなくなり始めたんです。私も昼間はバラエティ番組に出演して、夜は報道番組のキャスターに出演するということが普通にありました。 バラエティ収録の直後、報道番組でシビアな社会課題を扱うといったスタイルで仕事をしていた影響もあってか、私には「この話題は自分に関係あるかないか」という区別がないんです。だから、自分としては政治的発言を積極的にしている気はなくて、ただ思ったことを発信しているだけ。大衆に何かを問うつもりもないんです。自分の発言がバズったことすら、後から知ることが多いんですよね(笑) ーーネットだと発言を切り取り過ぎられて「麻木久仁子、政治家の〇〇に苦言」みたいにまとめられてしまいますよね。 麻木久仁子: 今はそういう“雑さ”がありますね。この10年で完全に時代は変わってしまったと感じますね。発信することの難しさだけでなく、情報を受ける側の難しさもあるなと。過去の私の経験が役に立たないなとつくづく感じています。
「政治に関係ない人なんていない」個人発信とマスメディアの責任
ーーテレビやネットで著名人が政治や社会問題について発言することをどう思われますか? 麻木久仁子: SNSなど自由なプラットフォームで著名人が自分の意見を言うと、「政治に口出しするな、本業だけやってればいいのに」と攻撃されることもあります。でも、政治と関係ない人なんてこの世に存在しません。コロナの状況でも分かる通り、政治がコロナにどう対応するかによって、あらゆる人の生活が影響を受ける。そう考えると、誰がどんな発信をするかは自由なんです。 しかし、そういった個人の発信とは異なり、ニュース番組――マスメディアの責任は大きいです。マスメディアの中で発信する場合は専門的な知見をしっかり押さえる必要があると思うのですが、最近のテレビはそこが少し弱いなと思います。だんだん専門家の方までもが空気感に引っ張られて、できるだけウケる話をしないといけないように追い込まれている場面もあるし、逆に難しすぎることを言って敬遠されることもある。もう少しバランスを整えてほしいと思うことがありますね。 ーー情報番組などで、専門家ではないコメンテーターがなぜコロナについて一端の論を言えるのか、と思うこともあります。 麻木久仁子: 私もキャスターやコメンテーターをやっていた身なので人のことは言えないのですが……私がいいなと共感するコメンテーターさんは、専門家を差し置いて何かを言い切るというより、素直に疑問や解決策を質問したり学んだりするスタンスを持っている人です。「私はこう思うけど、専門家の先生としてはどうお考えですか」といった姿勢があるといいと思うんですよね。 でも、今はとにかく少々乱暴でもバシッと言う。それによって、視聴者がスカッとする。こういうパターンが、ちょっと目立ちすぎているかもしれないですね。