植物を薬に使った最古の証拠か、1万5000年前の旧石器時代の埋葬跡で発見、モロッコ
先史時代の植物
英グラスゴー大学の考古学者で、今回の研究には関与していないカレン・ハーディ氏は「マオウは強力な植物で、薬効成分があるとともに、強い興奮剤にもなります」と話す。 しかし潜在的に危険な植物でもあり、それを使用していたということは、その効果に関する深い理解があったことも示しているという。 モラレス氏も、植物の生理学的な効果の知識は摂取しなければ得られないはずだと話す。 「マオウの球果は、治療効果と栄養効果の両方を期待した『薬用食品』として利用されていたと理解しています」。さらに、おそらく当時は現代のようには食品と薬が区別されていなかっただろうとも付け加えた。 ハーディ氏は、先史時代のモロッコの人々がなぜマオウを摂取していたかを今や正確に知ることは不可能だとしつつ、「どんな使用法であっても検討してみる価値はあります。特に、埋葬の儀式と思われるような状況においては」と話す。「埋葬に関連してそこにあったということは、何か重要な意味を持っている可能性が高いです」 もし、イベロマウリシオの人々がマオウの効果を理解していたとしたら、ほかの状況でもマオウを使っていた可能性はある。彼らが、抜歯や、治療という名目で頭蓋骨に小さな穴をあける穿頭術(せんとうじゅつ)などの原始的な手術に長けていたことを示す証拠もあると、モラレス氏は言う。 「マオウに血管を収縮させる作用があることを考えると、手術中の失血量を最小限に抑えるために使用されたのではないでしょうか。その抗菌・抗真菌効果も、感染症のリスクを下げて、回復を速めるために利用されていたかもしれません」
古代の薬、これまでの記録と証拠
今回の発見は、先史時代の人々が植物を薬物として使用していたことを示す最古の証拠かもしれない。 「マオウの実の痕跡が見つかるのは考古学遺跡では珍しいです」とモラレス氏は話す。「われわれの知る限り、このようなものが旧石器時代の遺跡から見つかったことはありません。ですから、アフリカで最古級の埋葬跡からまとまって発見されるのは全くの予想外でした」 過去には、イラクのシャニダール洞窟で発見されたネアンデルタール人による有名な「花の埋葬」跡で、穏やかな鎮静効果のあるノコギリソウやカモミールと思われる花粉が発見された。この埋葬は古くて7万年前のものとみられているが、最近の研究で、花粉は現代のハチが落とした可能性があることが示唆された。 4000年前にシュメール人によって書かれ、記録として残っている世界最古の物語の一つである『ギルガメシュ叙事詩』を含め、中国、エジプト、メソポタミアの古代文献にも、植物が薬として使用されていたという記述がある。 さらに、地中海に浮かぶメノルカ島で発見された3000年前の毛髪の束からも、幻覚作用のある植物物質であるアトロピンとスコポラミンとともにエフェドリンが検出されている。これに関する論文は、2023年4月6日付けで学術誌「Scientific Reports」に発表された。
娯楽目的ではないとの見解
メノルカ島の毛髪の分析結果は、幻覚剤を摂取したときの気持ち悪さを緩和するためにエフェドリンが使われたことを示唆している。モラレス氏は、ハトの洞窟でも同様の目的で使われた可能性はあると考えている。 しかしマオウは、例えば、眠気覚ましや儀式の際の痛みの緩和、疲労回復など、ほかにも多くの目的に使われた可能性もあると氏は話す。 そして、単に「ハイ」になるために使用された可能性は低いとモラレス氏は言う。 「現代のような娯楽目的で使用されたとは思いません。そのような習慣は、もっと最近のものであると思われます」
文=Tom Metcalfe/訳=荒井ハンナ