欧州の銀行はCO2排出量の多い企業への融資に高利率を課している
欧州中央銀行(ECB)が行った新たな研究により、EU内の銀行の融資慣行と、企業の気候関連活動との直接的な関係が明らかになった。この研究により、銀行各社は、温室効果ガス排出量が多い企業に高い金利を課す一方で、温室効果ガス排出を削減した企業の金利を下げていることがわかったのだ。融資の際に気候リスクを考慮することは、国連およびEUが支持しているが、米国では抵抗に直面している。 世界の温室効果ガス排出を2050年までに実質ゼロにするという目標を掲げた国際協定、パリ協定が2015年に発効したあと、国連を通じて、さまざまな業界にネットゼロ目標へのコミットメントを促すイニシアチブが創設された。 2015年には、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)や国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所、環境保全団体WWFの協賛によって、「SBTi(科学に基づく目標設定イニシアチブ)」が創設された。SBTiは、銀行などの企業と連携し、気候科学に基づいた目標を設定して、ネットゼロへの取り組みを推進するものだ。 2019年に提唱された国連責任銀行原則(PRB)は、銀行業界のビジネス慣行を、パリ協定に即したものに順応させることを促す内容となっている。署名機関は、銀行業界の全分野に関連する6つの原則を履行することになっており、現在までに345の金融機関がPRBに署名している。 PRBはまた、ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)を傘下にもつ。2021年4月に設立されたNZBAは、PRBの補助組織として、銀行業界を通じて間接的に企業活動を規制するという、さらに踏み込んだ形でパリ協定の履行に努める。NZBAは、「2050年までに融資・投資ポートフォリオを、温室効果ガス排出ネットゼロと整合するものとし、プラス摂氏1.5度目標を堅持する」ことを公約に掲げ、現在145の金融機関が参加している。 SBTi、PRB、NZBAは、銀行が多国間レベルでの融資能力を利用し、民間セクターの気候変動対策の推進に明確な意欲を示している証だ。しかし、こうしたイニシアチブの効果は、これまで明らかではなかった。ECBによる今回の研究で、直接的な関係が明らかになったかたちだ(ECBは、ユーロ圏の国々の利率調整と銀行業界規制を担う機関)。 研究を行ったのは、ECBの金融分析部門責任者カルロ・アルタヴィラ、ECBの通貨・信用・金融会計部門責任者ミゲル・ブーシニャのほか、イタリアにある大学「フェデリコ2世ナポリ大学」のマルコ・パガーノ教授(経済学)、ルイス・グイド・カルリ大学のアンドレア・ポーロ准教授(金融学)だ。なお、研究はECBからの委託という形式で行われたが、免責事項として、ECBの組織としての見解を示すものではないとしている。 同研究では、2018年9月から2022年12月まで、EUの銀行および企業のCO2排出量データを分析し、銀行の融資慣行、利率、企業の気候変動対策に関する公開情報の関連を探った。分析には、2万5000ユーロ(約400万円)以上の企業向け融資に関する公開データベースが利用された。また、企業の持続可能性および環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する報告書を、温室効果ガス排出量の開示と気候変動対策の情報源とした。