なぜ偏差値の高い学校では「チームスポーツ」が盛んなのか “体育座りができない”“上手に転べない”…運動能力の低下がもたらす子どもたちの危機【石井光太×為末大】
エポックメイキングだった「iPhone」の発売から17年。「スマホ」はスポーツと教育の現場をどう変えたのか。全国各地の学校と先生を取材し、『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓した作家の石井光太氏と男子400メートルハードルの日本記録保持者で『熟達論』(新潮社)を著した為末大氏がとことん語り合った。【前後編の前編】 【写真】保育園から高校まで、200人以上の教師に取材を重ねた衝撃の現場報告 (9月11日に開催された新潮社・本の学校ウェビナー「為末大さんと考える<AI時代の運動能力低下への悲鳴>『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』刊行記念オンラインイベント」の内容をもとに記事として再構成しました)
スポーツと学力の意外な相関
為末 今回、石井さんが発売された新刊『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』ですが、最初、どういったところから着想されたのでしょうか。 石井 学校現場で先生方に取材している中で、今の子どもたちと10年前の子供たちはかなり違うと感じてきました。体力測定の結果や視力は、データ上、ここ10年ぐらいでガクンと落ちている。実際はどうなのかと先生方に聞くと、もっとすごいことが起きていました。 例えば、体育座りすると、だるまのように子どもが倒れてしまう、運動会のかけっこでカーブを走って曲がれない。直線はまっすぐ走れるんだけど、曲がる時にうまく体を使えないので転倒してしまうそうです。でも、その座れないとかカーブを曲がれないという話は、運動能力テストみたいにして統計を取っているわけではないのでデータとして出てこないんです。でも、現場の先生方はそうしたことが増えているのを実感としてわかっている。 僕はこうしたことを聞くにつれ、今の子供たちの中で何が起きているのかについて気になったわけです。ただ、小学校の先生は小学生の変化しか知らないし、中学生の先生は中学生の変化しか知らない。それなら、保育園から高校まで順を追って取材していって、子供たちの中で起きている変化をすべて俯瞰してみようと思ったのが、そもそものきっかけでした。 為末さんはいろんな学校や子供に関わる機会がおありだと思います。いまの子供たちの体力の低下というものについてどう見ていますか。 為末 スポーツ界に今の質問を投げたときに最初に出てくる答えは、「子どもたちの体力低下でスポーツ離れが起きる」「スポーツ離れが起きるとスポーツ人口が減って、アスリートが減る」「将来、日本が獲得できる五輪のメダルが減る」。こういう回答が1番多いんじゃないかと思います。正直私はそれでも別にいいんじゃないか、と思うんですけど、そういう懸念が共有されています。 さらに懸念されるのは、スポーツと学力の相関です。スポーツによって獲得できる規律とか自制心などがそのまま学力に直結し、それが社会的な成功、簡単に言うと生涯年収に直結しているというようなデータがあります。その影響も大きいのかなと考えています。 では現場に行ったらどうでしょう。私も年間で小学校は10箇所ほどを回っているんですけど、そんなに体力が低下しているという感じはしません。ですが、「為末選手」を呼びたい学校ですから、呼ばれる時点でバイアスがかかっていて、体育という面でかなり意識の高い学校なんだと思います。この本を読むと、私が現実と感じている状況と実際とはだいぶ異なる環境になっているんじゃないかと思うんです。