なぜ偏差値の高い学校では「チームスポーツ」が盛んなのか “体育座りができない”“上手に転べない”…運動能力の低下がもたらす子どもたちの危機【石井光太×為末大】
怪我をさせたら保育園の責任
為末 その場合、家庭の経済力などで習わせるスポーツに差が出ますね。 石井 遊びで無条件に体を動かすことと初めから型にはめられて体を動かすことは全然違いますよね。そういった問題もおそらくあるだろうなと強く感じました。 為末 子どもってシステムとして見ると面白くて、頭でっかちで、よちよち歩きなんですけど、頭の位置が低い間に転ぶと、転倒した時のダメージが小さいんで、効率がいいんです。だからある年齢までに転ぶ経験をするのが重要だと言われていて、転び方の練習にもなる。最近だと、小中学生のハードルの練習で転び方がちょっとドキッとすることが増えているかもしれません。もっと小さい時に転んで、頭さえ守れば転ぶことって大したダメージはないんですが、そういう経験が昔に比べて少なくなっているのかもなと。 石井 いまは、保育園でも怪我をさせてしまうと保育園の責任になる。だから、転ばせないようにしようとか、危険なことはやめようとなる。 為末 成長した後でも走り方のフォームを教えるとかはできるんですけど、体の部位を反射的に動かすことというのは、教える類のものではないんですよね。ちょっと危ないかもしれない、怪我しちゃうかもしれない、でもやらせてみようというような段階に、運動能力や体力向上の鍵が詰まっているんだと思います。だから、本当に安全ばかりに配慮してしまうと、逆に体力面で将来が不安定になってしまうという矛盾がありそうです。 石井 昔は良かったとか、そういうことではなくて、家庭によってまったくやらせないところと、逆に意識していろんなことに挑戦させるところとに分かれつつあるように思います。統計として平均したら、そんなに変わらないのかもしれませんが、家庭によって二極化が進んでいる印象を受けます。小さい時に運動をしていた場合と成長してから始めた子というのは、運動能力的に違うものなのでしょうか。 為末 これは如実に違いますね。1番わかりやすいのは、日常動作から遠いスポーツであるものほど開始年齢が早い方が有利なんですよ。日常動作を含んでいる競技は、例えば陸上が最たるものですが、陸上は18歳から始めてもオリンピアンになったり、金メダリストになったりする。でも卓球となると、もう日常の動作とかけ離れていますよね。だから6歳から始めても遅いという感覚です。 石井 平野美宇選手や福原愛さんなど、幼少期の映像をよく見ましたよね。