「噴火は高温」のイメージを覆す「水と泥」の地獄…富士山噴火で「泥流」が襲ってきたらどうなる
火山というと、「マグマ」や「高熱」、それにともなう「火災」など、その対局な意味合いをイメージさせる「水」とは無関係のように思えますが、実は火山による災害と水とは、切っても切り離せない関係にあると言います。 【画像】「火砕流」と「火砕サージ」…もし襲われたら「即死」の恐怖 前回まで3回にわたって、噴火後に斜面を高速で駆け降りてくる高温の「火砕流」についての解説をお届けしましたが、今回は水とともに広範囲に、そして長期にわたって流れ降り続ける危険性のある「泥流」を取り上げます。
泥流とは何か
「泥流」という火山災害のキーワードは「水」である。火山灰やマグマを噴き出す高温の噴火と、水に何の関係があるのかと不思議に思われるかもしれない。しかし、実は火山災害と水とは切っても切れない関係にある。それどころか、危険さにおいては火砕流にも匹敵し、噴火後も長期にわたって続くことから、水による災害は富士山噴火においてもきわめて強い警戒を要するのだ。その代表格ともいえるのが、ここで解説する「泥流」である。 泥流とは、土砂が水とともに斜面を流れ下る現象である。火山灰や岩石は、水と混合するときわめて流動的になる。これらが大量の水で一気に押し流されると、流域にある巨岩をも取り込んで、大きな音を立てながら激しく波打つように突き進む。こうした泥流の速度と破壊力は、人間の想像をはるかに上回るものがある。 泥流は水のあるところなら、さまざまな場所で発生する。火山の広い裾野には川が流れているし、山頂が雪をかぶっていることも多い。 たとえば積雪期に噴火が起きることで、山頂の雪が急激に融かされて泥流が起こることがある。冬期でなくとも、万年氷や氷河がある場所で噴火が起きれば泥流が発生する。また、噴火口はしばしば火口湖となっているので、噴火によって湖の水が火山灰や土壌を取り込んで泥流となることもある。もちろん、台風をはじめとする集中豪雨も泥流発生の引き金となる。 泥流と似た言葉としては「土石流」もよく耳にする。明確な定義はないのだが、あえて区別すれば、泥流は水がジャブジャブしている感じ、土石流は岩がゴロゴロと含まれている感じ、といったニュアンスだろうか。しかし本質的には両者は同じ現象であると考えて差し支えない。 また、泥流と同様の意味で「ラハール」(lahar)という言葉もしばしば用いられる。これはもともとインドネシア語で、「火山泥流」と訳されることもある。 では、江戸時代の富士山・宝永噴火にともなって起こり、その後も長い間、周辺の町や村を苦しめた泥流を見てみよう。