日本の「防衛最前線」では何が起こっているのか? 映画『戦雲』が映し出す南西諸島住民たちのリアル
九州南端から奄美大島や沖縄本島、台湾北東の与那国島を含む先島諸島まで、約1200㎞にわたり点在する南西諸島。そこには今、次々と自衛隊駐屯地やミサイル、弾薬庫が配備されつつある。 【写真】与那国島に運び込まれた「16式機動戦闘車」 約160万人が暮らす島々で、今いったい何が起こっているのか。カメラを手に現地取材を続ける映画作家に、「要塞化」する島々の現実を聞いた。 ■「国防」のために奪われた権利 国内にある米軍関連施設の7割が集中する沖縄県の広さは、国土の1%にも満たない。太平洋戦争末期、沖縄本島は本土決戦までの時間を稼ぐための"盾"となり、10代半ばの少年少女までが徴用され、県民の4人に1人が約2ヵ月に及ぶ激しい地上戦の犠牲となった。 来年には戦後80年を迎える現在も、アメリカに主導された国防の負担の大部分が沖縄に背負わされる構図は変わっていない。 しかし、その沖縄を含む南西諸島には今、また別の「戦時」が到来しつつある。2016年に与那国島に陸上自衛隊駐屯地が設置されたことを皮切りに、島々には部隊や駐屯地、そしてミサイルなどの弾薬が次々と配備されている。 しかもこの「要塞化」は、地域住民の十分な同意を取りつけないまま進められている。与那国島では町議会に一切知らされずにミサイル基地増設が決まり、石垣島ではミサイル基地配備についての住民投票を求める署名が条例の定める有権者の4分の1を大きく超えたにもかかわらず、住民投票条例の項目自体が市議会で削除された。 こうした問題の報道は、例えば普天間基地の辺野古移転を巡るそれと比べても、かなり小さい。 テレビ局のキャスター時代から沖縄についてのドキュメンタリーを撮り続け、12年にオスプレイが強行配備された高江(国頭郡東村[くにがみぐんひがしそん])での住民反対運動を追った映画『標的の村』で19の映画賞を受賞した三上智恵(ちえ)監督は、「基地問題」という大きなくくりの中で隠れてしまう問題があることに、自責と無力感を感じているという。 「基地問題を『アメリカの横暴に沖縄県民が虐げられている』という構図にしてしまうと、見えなくなるものがあります。 46都道府県に与えられている人権や財産権などの権利が、『国防』の名の下に沖縄には与えられず、むしろ今も奪われ続けているという現実です。私も含めて『米軍に虐げられる沖縄』と報道するだけでは弱かった。現実の半分も伝えられていなかったのだと痛感しています」