【おいしくて美しい“和菓子遺産”】志゛満ん草餅の草餅
・噛み心地を追求し尽くした餅屋のお団子。
もう一つ、本店に来たら必ずや持ち帰りたいのが「焼き団子」。百貨店などには卸しておらず、ここでしかお目にかかれない一品で、これも食べごろにこだわるがゆえ。 きめ細かく、もっちりとした柔らかさを求めて、団子用の生地を3時間もかけて蒸し上げるというから驚く。そして草餅と同様に丹念に石臼で搗き、成形した団子は注文が入ってから甘辛なみたらしのあん(タレ)をかける。店頭にあるのは見本だけ。あんをかけると団子が固くなってしまうため、作り置きはしないのだ。 客の入り具合を見ながら朝から16時まで石臼を稼働し、売り切れたらそこで店じまい。防腐剤など保存料は一切不添加なので、消費期限が「その日のうち」なのも当然のことだ。 「うちは草餅とお団子とどら焼きくらいしか作っていないからこそ、研究して新たな発見をするのが楽しいんです。毎日そんな発見があるから続けているのでしょうね」と鈴木さん。 草餅ひと筋にこれほど研究を重ね、手間を惜しまず作っているとは。そうした店主の仕事に気づかぬまま食べている客は多いに違いない。 「聞かれればこうして何でも答えるけど、自分からあれこれ言うのはなんだか…粋じゃないじゃない」と笑う鈴木さん。多くを語らぬ、だけど“何だかやけにおいしい草餅”は、江戸っ子の心意気からできている。 そして店頭で注文を聞き、きびきびと包んでくれるベテランスタッフさんたちの気働きや包装の巧みさがまた、素晴らしい。隅々まで自社のお菓子への愛を感じるのだ。 最寄り駅からちょっと遠いのは、かつて船着場のあった場所であり、いわば昔の「駅前」だから。この接客の気持ち良さと出来たてを味わえる喜びは、はるばる本店まで出向いた者の特権だろう。
志゛満ん草餅
包装紙はヨモギの葉を思い起こさせる清々しい緑色に、隅田川に咲く桜を散らしたデザイン。●東京都墨田区堤通1-5-9 TEL 03 3611 6831 9時~16時。水曜休。
photo_Junichi Kusaka text_Yoko Fujimori