兵庫県斎藤知事“不信任案可決”で辞職・失職でも「退職金1561万7700円」は“満額支給が妥当”…なぜ?
「不支給」「減額」は“法的に不可能”…その理由は?
斎藤知事が9月中に辞職・失職する場合、退職手当の受け取りを辞退しない限り、1561万7700円を受け取れることになる。 職員に対するアンケートで斎藤知事のパワハラ行為を見聞きしたとの回答が相当数あり、公益通報者保護法に違反して通報者の処分が行われ、職員2名が自死しているというのは異常な事態といわざるを得ない。退職手当が「満額支給」ということに、釈然としない県民も多いかもしれない。 一般の公務員や民間企業のサラリーマンがパワハラ等の不祥事を起こして懲戒免職・懲戒解雇となる場合、退職手当の不支給または減額が行われることが多い。知事の退職手当も同様に、不支給または減額にすることは考えられないだろうか。 元東京都国分寺市議会議員(3期10年)で、首長・議員の法務の専門家である三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に聞いた。 三葛弁護士:「結論からいえば、不支給にすることも、減額することも困難です。理由は大きく分けて3つあります。 第一に、法的根拠の問題です。『条例1』にも『条例2』にも、不支給や減額についての根拠規定がありません。 退職手当の支出は、その年度の予算に則って行われるものです。もし、減額(事実上の不支給である『1円』とすることも含め)にするのであれば、議会の議決が必要になります。 しかし、そうなると議会の意思による懲罰の意味合いがかなり強くなり、二元代表制の趣旨に反します。 現状、兵庫県議会の全会派の意思が一致しているのは、あくまで『不信任の議決』についてのみです。退職手当の不支給や減額までするとなると別の問題であり、事実上の懲罰にあたりかねないため、賛成できないという考え方も出てくる可能性があり、足並みが乱れるリスクもあり得ます」 不信任の議決と、退職手当の支給とは法的に別の問題ということである。
退職手当は「職務の対価」を超えるもの
三葛弁護士は、第二の理由として、都道府県知事の退職手当が、職務遂行の対価にとどまらず「民主主義の運営コスト」の性質をもつことを指摘する。 三葛弁護士:「都道府県知事の給与や退職手当は、職務の遂行への対価というにとどまりません。 知事には住民の代表者、行政のトップとしての重責があり、それを担うことへの対価という側面があります。 その金額は、同程度の規模の自治体との比較等により、適正な額が定められています。それを押して減額するには、よほどの理由がなければ認められないと考えるべきです。 よくあるのが、職員が不祥事を起こしたり重大なミスがあったりしたときに『管理不行き届き』の責任を取ることを明確にするために、知事部局から自発的に給与等の減額を議会に提案するケースです。 また、斎藤知事は給与・退職手当の額を自ら引き下げています。これは政治姿勢の一つとして尊重すべきものです。 このように、首長自らが、政治姿勢のあらわれ方として、給与や退職手当の減額を提起することはしばしばみられます。 しかし、議会側から一方的に大幅な給与・退職手当の減額や不支給を決め、首長に突き付けるということになると、多数野党が、少数与党の首長をいじめることがまかり通ってしまう危険性があります。地方自治と民主主義を決定的に壊してしまうリスクがあるのです」