朝ドラ『虎に翼』大庭梅子が望んでいた親権は新民法でどうなった? 成人した3兄弟と家族の複雑な状況とは?
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は第12週「女房は掃きだめから拾え?」がスタート。特例判事を務める寅子(演:伊藤沙莉)のもとに舞い込んだ遺産相続を巡るトラブルは、なんとかつて明律大学女子部で共に学んだ大庭梅子(演:平岩 紙)の夫・大庭徹男の死に起因するものだった。さて、作中では相続にまつわる新旧民法の違いが紹介されたが、かつて梅子が望んでいた「親権」については、どう変わっていたのだろうか。 ■戦後の憲法・民法改正で母親が親権を得られるようになる 女子部時代、梅子は自分の3人の息子たちについて苦しい胸中を吐露していた。長男・大庭徹太(演:見津 賢)は帝国大学に通うエリートだが、父親に似て他者を見下す傲慢な人間になってしまった。だからこそ、次男と三男はどうにかして真っ当な人間に育てたいのだ……と。離婚すれば親権は原則父親にあった時代である。梅子は打開策を求めて法律の道を志していた。 旧民法では877條において「子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス」と規定されていた。つまり親権は父親が持つと決まっていたのである。離婚後も当然父親が親権を有するが、事情がある場合は両親の協議を経て母親を「監護者」にすることはできた。これは812條に「協議上ノ離婚ヲ為シタル者カ其協議ヲ以テ子ノ監護ヲ為スヘキ者ヲ定メサリシトキハ其監護ハ父ニ属ス」とある。 とはいえ、当時の大庭家の状況からして、徹男が召使のように扱う妻と“協議”などするはずがなく、梅子にはこの奥の手を使う術がなかったと思われる。 昭和22年(1947)12月「民法の一部を改正する法律」では、親権について第818條において「成年に達しない子は、父母の親権に服する。子が養子であるときは、養親の親権に服する。親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但し、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う」と定められている。 また、続く819條においては「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母がこれを行う。但し、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父がこれを行う」と定められた。 さらに、834條では「父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家事審判所は、子の親族又は檢察官の請求によつて、その親権の喪失を宣告することができる」とされている。 GHQが再三日本政府に突き付けた女性の地位向上や男女平等の理念が、親権問題にも反映されたのである。憲法同様、あの頃欲しかった「可能性」だ。 昭和24年(1949)春、大庭徹男の死亡時点の大庭家の状況を整理しよう。姑・常(演:鷲尾真知子)は年を重ねて体に不調が出ているも、その厳しさは健在。長男・徹太は父と同様弁護士として働いており、妻・静子(演:於保佐代子)がいる。次男・徹次(演:堀家一希)は戦地で負傷し、復員後も無職。酒に溺れてひねくれてしまった。そして三男・光三郎(演:本田響矢)は22歳になり、法律を学んでいるという。そこに、大庭徹男が長年囲っていた妾・元山すみれ(演:武田梨奈)が遺言書に基づいて遺産を全て相続すると名乗りをあげたのである。 3人いずれも成年に達して「親権」の枠から外れていったわけだが、これまでの梅子の苦労は察するに余りある。一度は光三郎を連れて家を出た彼女だが、この状況をみるに結局大庭家でじっと息を潜めるように「スンッ」として姑や夫、3兄弟の面倒をみてきたのだろう。戦時中だって、戦地の息子を案じながら、苦しい食糧事情のなかで必死にやりくりし、それでも厳しい言葉をぶつけられたであろうことは想像に難くない。 新たな憲法によって平等が謳われるようになった日本で、大庭家の騒動、そして梅子の今後はどのようになっていくのだろうか。 <参考> ■法令データベース(https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/lawdb/) ■e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/) ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)
歴史人編集部