認知症でも「愛猫の世話」だけは忘れなかった…!ゴミ屋敷でみつかった、78歳独居女性が大切にしていた「おくるみ」の意外な中身
死の兆候
「彼女は意識レベルが低下していて、すぐにうとうとと眠り出す『傾眠状態』になっていました。大きな声で『いまからお風呂に入りますが、どこか痛いところはありますか? 』と問いかけると、目を開いて、『ずっと寝ていたから、足が痛い』と教えてくれましたが、すぐにまた目を閉じてしまいました」 武藤さんらは、彼女の足が痛まないよう、3人がかりで慎重に彼女を湯舟に入れ、全身の皮膚のチェックや床ずれの有無などを確認しながら全身を洗っていったそうだ。鳥の巣のように絡んだ髪の毛も、本人の希望により散髪して貰ったうえで、手入れしていった。 「彼女はずっと目を閉じていましたが、とても気持ちよさそうな顔をされていました。彼女の皮膚は丈夫で傷や床ずれも無かったのですが、ずっと食事を摂っていなかったのだと思います。彼女の元々の健康な状態の体重はわかりませんが、かなり痩せていました。 脂肪組織が著しく減少し病的に痩せている状態を、私たちは『るい痩(そう)』と呼んでいるのですが、彼女の体からは重度の『るい痩』がみられ、肋骨は皮膚の上に浮き上がっていましたから…」 彼女の命が尽きかけていると判断した武藤さんは、彼女の布団にゴミの中から引っ張り出してきた新しいシーツを張り替え、寝かせたそうだ。そして事態を見守るケアマネに状況を説明した。
「それでもお風呂に入れてよかった」
無事に訪問入浴介護が終わり、入浴機材を専用車に片づけていた帰り際、ケアマネがやってきて、少しだけ嬉しそうにこういった。 「もうすぐ訪問診療をしてくれるお医者さんもやってきます。入浴中、彼女はずっと気持ちよさそうな顔をしていましたよね。彼女をお風呂に入れてあげることができて本当に良かった」 それから数日後、彼女は旅立った――。 「高齢者がゴミをため込む理由は様々です。ゴミを片付けるための能力を認知症で失った結果起こるパターン。配偶者や大切な誰かの死、病気などによる大きなショックにより、生きる意欲が喪失し、不衛生な環境でも構わないという心境になってしまうパターン。あるいは孤独や不安をゴミで埋めた代償として、ゴミに依存し、ゴミが宝物のようになってしまうパターンもあります。 しかし、たとえ本人のゴミ処理能力が失われたとしても、社会から孤立さえしていなければ、ご家族がゴミ出しをサポートしたり、ヘルパーをいれて生活導線の衛生を確保したり、施設への入所を検討して貰うなど、いくらでもゴミ屋敷化を防ぐ方法はあると思います」 ゴミ屋敷で暮らす高齢者について、10年間の追跡調査を行った東京都健康長寿医療センター研究所の井藤佳恵医師は、<独居高齢者の認知症が進行し、身体機能が衰えたとき、適切な支援がなければ、誰もがディオゲネス症候群(ごみ屋敷症候群)になる可能性がある>と結論づけている――。 (取材・文 『週刊現代』記者 後藤宰人) 武藤直子さんの連載、「50代「ひきこもり」息子と暮らす78歳母が、末期がんで寝たきりに…「ゴミ屋敷」で迎えた「悲痛な最期」」もあわせてどうぞ
武藤 直子
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