チョコレートの原料・カカオの生産者は現地の子どもたち。世界から児童労働を減らすためにできることとは?
貧困、国の支援不足。児童労働問題が現代まで続く理由
――児童労働の問題が長く続く要因として、どのようなことが挙げられますか。 白木:各家庭の経済的な要因というのが大きいと思います。経済的に余裕がない人たちはその日を生き抜くだけで精一杯で、豊かになる手段がありません。それによって、親は子どもたちの教育費を賄えないだけでなく、生活のために子どもを働かせざるを得ないんです。 私たちのようなNGOとして、家庭やコミュニティレベルで支援を届けていくことで改善できることもありますが、もっと大きな社会の仕組みを変えていかないと、規模の小さな改善にしかならないのです。 特に農業の場合、農家が受け取る収入水準を上げるには、作物の価格を上げる必要があり、特にカカオの場合には国際価格を決定する仕組みの変更や、国ごとに異なる取引方法の整備など、国際レベルでの構造変革が不可欠です。一朝一夕では解決できる問題ではありません。 ――児童労働が問題となっている国で、支援策などは講じられていないのでしょうか。 白木:誰にとっても、基本的な生活水準を維持できる仕組みを機能させるのが理想ですが、国によっては機能していないのというのが現状です。この状況は児童労働問題が続くもう1つの要因でもあります。 先ほどお話した「児童労働フリーゾーン」は、そういった仕組みを構築して機能させるためのものです。学校や教師の配置をはじめ、困窮家庭に対する福祉サービスの提供、就学年齢を過ぎた子どもには就業訓練の機会を提供するなど、セーフティネットの構築を自治体レベルで推進し、必要な行政サービスや支援を必要な人に届けることを目指しています。 ただ、こうした制度を構築すると同時に、児童労働に対する認識のずれを是正することも必要です。 ――どのようなずれでしょうか。 白木:児童労働は当たり前で、それを良しとしている社会的風潮があるという点です。 児童労働の経験がある大人の中には、自分の子どもにも同じ道を歩ませてしまう人もいます。また、人身売買のような形で働かされている子どももいて、その裏には大人がいます。大人が子どもを使って利益を得ているわけです。 もちろん、なかには「自分が教育を受ける機会がなかったからこそ、子どもには必ず教育を受けさせて、より良い人生を送らせてあげたい」と考える大人もいますが、国の支援不足や経済的な問題によって、子どもが働くという道しか選べないのが現状で、負の連鎖となっています。 「貧しい家の子どもは働くことが当たり前」ではなく、「学校で学び、スキルを身に付け、自分で自分の道を切り開くというのは子どもの権利で、どんな境遇に生まれたとしても全ての子どもに保障されるもの」、そういった意識改革が個人レベルから国、国際単位で必要だと思っています。 ――児童労働が続くことで、子どもたちにはどのような弊害が起こるのでしょうか。 白木:学ぶ機会を失うことで必要な知識を得られず、将来の選択肢が狭まってしまうことと、健康被害です。 成長途上にある子どもにとって、長時間労働や重労働は、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。また、字の読み書きができないことで、農薬の適切な使い方が分からず、じわじわと健康が害されてしまうこともあります。結果、大人になって家庭を持ったとき、自分の子どもを働かせざるを得ないという、悪循環に陥ることもあるんです。