渋谷慶一郎のアンドロイドオペラを読み解く(後編)
障がいの有無にとらわれないインクルーシヴがアートにもたらすポテンシャル
序曲に続く第一部は、新国立劇場委嘱作の子ども達とアンドロイドがつくる新しいオペラ『Super Angels』からの抜粋だ。アンドロイドと視覚や聴覚などに障がいを持つ子どもたちを含むおよそ30人の「ホワイトハンドコーラスNIPPON」が歌い、そこに渋谷とオーケストラが伴奏をつける。衣装はAIなどを使って服作りをするブランド、HATRA(ハトラ)が手掛け、一部映像はAIを用いてデータドリブンな作品作りをおこなう岸裕真が手掛けた。 「元々、新国立劇場の大野和士さんからは2020年の(実際は2021年に延期)東京オリンピック/パラリンピックの開催に合わせて行われる日本博のタイミングに合わせて、子どもたちが参加できるオペラを作って欲しいと言う依頼を受けた」と、渋谷は話す。 この時、「児童合唱がマストなのであれば、障がいを持つ子供たちも演奏に参加できるオペラにしたい」と、渋谷から提案したそうだ。渋谷の小学校・中学校には特殊学級があったそうで、渋谷自身、そのクラスの子どもらと親しく接しており、彼らだけが特殊な扱いを受けることに違和感を感じていたという。今でも、障がいを持つ子どもたちが芸術において高い能力を発揮すると信じている。 「彼らは喜んだり、歌ったりする時に表現のリミッターがないんですよね。隣りの人を見て同じぐらいの声の大きさで歌うとか、そういうのがない。それは本当に素晴らしくて、やっぱり芸術とか音楽にとってはすごい強みだと思うんですよ」 インクルーシヴが持つ可能性に気付いているのは渋谷だけではない。今回の東京公演の直前、来日する前日に渋谷は、フィルハーモニア・ド・パリ劇場でおこなわれたベートーヴェン唯一のオペラ、『FIDELIO』の舞台を観劇した。これはGustavo Dudamel (グスターボ・デュダメル)が指揮したロサンゼルス・フィルハーモニックと「Deaf West Theater」という、ろう者と難聴者の劇団による公演だった。公演は大成功し、渋谷は公演後に指揮者のデュダメルや関係者と会い、彼らがアンドロイドオペラの存在を知っていること、障害を持った子どもたちと音楽の可能性について共通した認識を持っていることなどを確認した。 最近、アートにおいてもインクルーシヴな作品が注目を集め始めているが、渋谷は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の準備が進められていたコロナ禍前から、いち早く考えていたという。