「ガンで逝った従兄弟、事故死した友のために」元“崖っぷちJリーガー”がシンガポール代表になるまで「板倉や鎌田がA代表に…自分は何してるんだ」
国際試合のピッチはじつに11年ぶりだった。しかし、ユニフォームの色は違う――先月、シンガポール代表デビューを果たした仲村京雅(28歳)は、かつて世代別日本代表として活躍したテクニシャンだった。将来を期待されながらも、日の目を見ることなく、日本を旅立った理由とは? サッカーエリートの挫折と再起を追った。〈NumberWebインタビュー全2回の後編/前編から続く〉 【当時の写真】「板倉も鎌田もいない…」U-17W杯で“7番”を背負った仲村京雅(2013年)シンガポール代表になった現在と比べて見る 下部組織からプレーした愛着あるジェフ千葉では、一度も公式戦のピッチに立つことなくクビになった。2018年はレンタル移籍先だったJ3のY.S.C.C.横浜に完全移籍して再起を誓うも、リーグ出場わずか4試合。何よりスクールのコーチ業との掛け持ちで、生活も給料もギリギリだった。 かつてU-17W杯でベスト16に輝いた仲村京雅のサッカー人生は、窮地に追い込まれていた。 「(2018年は)同い年が大学4年生の時で、翌年にはJ1やJ2に即戦力として入ってくる。何より一緒に日本代表でやっていた三好康児や三竿健斗、(U-17W杯メンバーから漏れた)北川航也、井手口陽介、世代別代表に入っていなかった板倉滉や鎌田大地ら同級生がA代表に近づいていた。自分は何をしているんだろう……と、現実を受け入れられなかった。サッカー関連のニュースは一切見ないようにしていましたね」
サラリーは低かったが、サッカーに集中できる
YS横浜から契約延長の打診はあったが、新しいチャレンジをするために仲村はトライアウトに参加した。JFLを含めた数クラブからのオファーが届き、中には良い条件もあったが、劇的に状況を変えるべくアルビレックス新潟シンガポール(以下、アルビレックスS)を選んだ。 「英語を習得したかったのもあって英語圏のシンガポールは魅力的で、断る理由がないくらいの即決でした」 現在のアルビレックスSは年齢制限がないが、当時は育成を目的としたU-23のチーム。つまり仲村は最年長だった。高校を卒業したばかりの選手も多く、学生気分が抜けない選手たちとの共同生活。住居の環境は整備されていたが、サラリーはJリーグ時代より低く、モチベーションを保つのは決して容易ではなかっただろう。それでも、仲村にとってはサッカーに専念できる環境は幸せだった。 シーズンを通して主軸としてプレーすると、8ゴール9アシストとキャリアハイの数字を残し、オフには複数のシンガポールのクラブからオファーが殺到した。 「当時はまだJ1、J2に戻りたい気持ちが強かったので、ACLで日本のクラブと戦って自分が活躍をすればチャンスが来ると思っていました」 ここまでのキャリアを振り返ると、仲村がスパイクを脱ぐ決断をするタイミングはいくつもあったように思える。サッカーを続けるにしても、本業となる仕事を見つけながら、社会人クラブでプレーする選択肢もあっただろう。なぜ、光が見えない中でも、向上心を持ち続けることができたのだろうか。実は仲村を突き動かす出来事がある。 仲村は小学4年生の頃、実の弟のように可愛がっていた5歳下の従兄弟を血液のガンで亡くした。幼稚園に入ってからはよく一緒にボールを蹴ったが、病は日に日に悪化し、最期は車椅子生活を余儀なくされた。 「ある日、ふと練習から帰ってきた僕を見て『僕も、もっとサッカーをやりたかったな……』とボソッとこぼしたんです。その言葉が今も脳裏に焼き付いていて」 その言葉からまもなく、従兄弟はこの世を去った。「なんで僕は走れなくなったの?」と問いかけられた言葉が、今も仲村の脳裏に残っている。 「あんなに活発な子だったのに……。だから、どんな状況になっても『サッカーをできているだけ幸せじゃないか』と思えるようになったんです」
【関連記事】
- 【当時の写真】「板倉も鎌田もいない…」U-17W杯で“7番”を背負った仲村京雅(2013年)シンガポール代表になった現在と比べて見る
- 【前編から読む】「お前、悲しくならないの?」クビ宣告→家賃2万、ギリギリ極貧J3生活「王様キャラだった自分が…」U-17W杯で世界デビューした“エリート”の挫折
- 【必読】逮捕報道から4カ月…佐野海舟はドイツで今「めっちゃいい。海舟がかなり回収してる」板倉滉も認めた10戦連続先発の理由「日本代表スタッフも視察」
- 【舞台裏】「俺んち、泊まれば?」遠藤航に密着TVディレクターは見た…リバプールで愛されるまでの“壮絶な1カ月”「ファウルしないとかあり得ない」
- 【消えた天才】「お酒に逃げた」25歳で引退した堂安律の“元相棒”が初告白…“遠藤保仁の後継者”と呼ばれた天才パサーの後悔「なんであんな行動したんやろ」