考察『光る君へ』29話「ははうえー、つづきはぁ?」物語をせがむ賢子(永井花奈)がかわいいっ!宣孝(佐々木蔵之介)、詮子(吉田羊)が去り、いよいよ紫式部誕生か
ふたりの妻、ふたりの母
東三条院詮子四十賀! 嬉しい映像化である。しかし、優雅ではあるがこんなにギスギスした現場になるなんて。 ここで道長の息子たち──倫子の長子・田鶴(三浦綺羅)が「陵王」を、明子(瀧内公美)の長子・巌君(渡邊斗翔)が「納蘇利(なそり)」を舞ったことは『権記』『小右記』にある。特に『小右記』では、巌君の「納蘇利」について「とても雅やかで、優れていた」「帝は感動された」「感嘆して涙を拭う者が多かった」と絶賛された様子を伝えている。 ドラマでは明子の兄・源俊賢(本田大輔)が涙を流しているが、これは赤ん坊の頃から見てきた甥っ子が大舞台で立派に舞っているのを見て感動しているのかもしれない。 わかる。親戚の子に対してそういうこと、あるよね。 松明の炎がバチバチと爆ぜる音に合わせて、道長のふたりの妻、舞い手のふたりの母が微笑んで会釈を交わす……心の中はバチバチと火花が散っている。 「さすが道長の子だねえ」と道綱(上地雄介)は呑気に褒めるが、こういうとき直接養育に携わっている母親は褒められないんだよなあ! という図だった。 帝が賞賛し巌君の舞の師匠の位を上げたために、泣いてしまう田鶴。大丈夫だよ、あんなに複雑な舞をやり遂げたのだもの。正直言うと私、巌君の舞との差があんまりわかってない!招待客の反応で巌君がとても上手いんだろうなとは想像したけれど、どっちも上手だったとしか! 声をあげ悔し泣きをする田鶴に(あらあら。そちらの若君はこうした場で粗相をするような教育をしていらっしゃるの……?)という顔まで、明子の倫子への無言の煽り力が凄かった。
詮子の最期
体調不良で倒れてもなお、帝に帝としてのふるまいを説く詮子……道長に伊周の位を戻すよう頼むのも、彼の恨みが帝に向かわないようにするため。病で苦しむ自分のためではなく、 どこまでも母として、息子・一条帝を思ってのこと。 薬湯を拒否したのは、4話で父・兼家(段田安則)によって円融帝(坂東巳之助)に毒が盛られていたと知り、薬など生涯飲まぬと宣言して以来、誓いを守ってきたから。円融帝に対して一族が犯した罪を、自分の身で贖うつもりだったのかもしれない。 愛が深い人で、それゆえに息子・一条帝とは深い断絶が生まれてしまった。それでも、最期まで帝を案じ続けた。徐々に弱ってゆく呼吸、そのなかで絞りだす言葉。吉田羊の芝居が見事だった。詮子……お疲れさまでした。 伊周が暗い情熱を注ぎこみ行う呪詛は道長本人を害するのではなく、道長の家族間に不和の根を張り、彼を長年後押しした女院・詮子を奪ったように見える。 兼家の恐ろしい部分を引き継いで政を動かしていた詮子がいなくなれば、道長が担わねば一族を守れない。26話での詮子の台詞「道長もついに血を流す時が来たということよ」。姉の死によって、その時が本格的に到来ということなのだろうか。
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