考察『光る君へ』29話「ははうえー、つづきはぁ?」物語をせがむ賢子(永井花奈)がかわいいっ!宣孝(佐々木蔵之介)、詮子(吉田羊)が去り、いよいよ紫式部誕生か
ふたりの作家の違い
賢子は、まひろが子守歌替わりに聴かせていた「蒙求」(もうぎゅう)に反応なしだ。親が大好きなものを我が子にも……と与えたところで、子が興味を持つとは限らない。このあたりは世の中の多くの親が共感するだろう。 「殿様が帰ってもあんたと私は今のままよ。堂々と来なさいよ!」と、福丸(勢登健雄)に念を押す、いと(信川清順)。いとと為時にはかつて体の関係があったと、これまでもちょいちょい示唆されていた。彼女の言葉に対して煮え切らない態度の福丸だが、そりゃあ、この家の主である殿が帰ってきたら他の男がここに通うのは難しいだろう。しかし被災後の片付けに来てくれたり、乙丸(矢部太郎)と共に、まひろの安産を必死に祈ってくれたり。いい男である。ここは彼の呑気さを発揮して、ここに居ついてほしい。 喪服姿の清少納言(ファーストサマーウイカ)が、まひろを訪ねてきた。 『枕草子』を友に見せる……まひろが読んでいる箇所は「香炉峰の雪いかならむ」だ。『枕草子』でもキラキラ輝き度ではトップの章だろう。 まひろ「私は皇后様の陰の部分を知りたいと思います。人には光もあれば陰もあります」 清少納言「皇后様に陰などはございません! あったとしても書く気はございません」 清少納言の定子への思いは強火だな! とは思うが、定子の苦境を間近で見つめていた人間が、あの姿を書きたくないという気持ちはわかる。 自分の目で見たもの、経験したことの中から人々に伝えたいものを描き出すのは、随筆家としての清少納言の芯であり、まひろの「人は複雑であればあるほど魅力が増す」という考え方は、紫式部の物語作家としての芯だ。 ふたりの作家の違いであり、そこに優劣はない。
学者としてのプライドではなく……
頼もしい夫、娘を父として可愛がってくれた宣孝の突然の死。 北の方(嫡妻)からの報せは、礼を尽くしつつも、弔いを済ませた後であり、最期の様子も詳細に伝えない形であった。妾とはそういう立場である。報せがあっただけでも世間一般的にはよいほうかもしれない。 「豪放で快活であった殿の御姿だけを御心にとどめておいていただきたい」という言葉に、顔も知らない北の方の一縷の恩情を感じる。 『紫式部集』には、夫・宣孝を悼む紫式部の歌が記されている。 見し人の煙となりし夕べより名ぞむつましき塩釜の浦 (夫が煙となってしまったあの夕暮れから、藻塩を焼く煙が立ち上るという塩釜の浦の名前にさえ親しみを覚えるようになりました) 『紫式部日記』にも、のちに当時のことを思い出し「涙に暮れているうちに時の移ろいに気づき、もうそんな季節かと思いながらも、これからどうなってしまうのだろうと考えていた」と綴る。 これからどうなってしまうのかというのは、仕える者たちがより強く抱えた不安だろう。「飢えるのは嫌だから越前に帰ろうかな」というきぬ(蔵下穂波)の言葉はもっともだ。が、乙丸に「あんたもくる?」 乙丸「えーーーーっ」 観ているこちらも、えーーーーっ。乙丸が、まひろの傍を離れる……? きぬはもともと、為時の家に雇われたのではなく、乙丸と結ばれたから都についてきただけだからそんな提案もするだろうけれども。乙丸には幸せでいてほしいんだけど、あああ。 急に姿が見えなくなった宣孝を探す賢子の「ちちうえは?」に泣いてしまう。 賢子……可愛がってくれた父上のこと、ずっと覚えていてくれるだろうか。大人になり覚えていてもいなくても、切ない話である。 賢子の乳母・あさ(平山咲彩)遁走。この家の経済状態に危機感を抱いたのは、きぬだけではなかった。そんな中で、左大臣・道長(柄本佑)の使いとしてやってくる百舌彦(本多力)。 「越前守再任の後押しをできず『すまなかった』とのことでございまする」 百舌彦、ちょいちょい道長のモノマネをするし、割と似ている。この「すまなかった」もさりげなく似ている。今回の使いは、為時を左大臣家のお抱えの漢籍指南役として雇いたいという申し出だった。断る為時に、うんうん。まひろと道長の関係を知っていては引き受けにくいよね……娘の元カレに私的に仕事を世話してもらうなどと、学者としてのプライドが許さないかもねと思ったら、 「道長様の北の方のご嫡男のご指南など、お前の心を思えば……」 えっ。そっち!? そっちの気遣い?久しぶりに帰郷した為時のカタブツぶりと浮世離れぶりが加速していた。
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