西岡剛のドラフト1位指名に尽力、新庄剛志獲得をめぐるトラブル…「ボビー・バレンタインの逆鱗に触れた男」が証言する「ロッテ編成部長時代のウラ事情」
ボビー・バレンタインが激怒
翌朝、千葉ロッテが新庄へのオファーを撤回した旨の報道が出ている中、いつも通り出勤の準備を整えていた広野。そこに川北代表から電話が来る。川北は大慌てだ。 「バレンタインが激怒しているから、浦和の球団事務所に来てくれ!」 聞けば、バレンタインは新庄獲得レースからの撤退を報道で知り、怒り心頭なのだという。広野が浦和に着くと、事務所内ではバレンタインが英語で周囲に捲し立てていた。 「お前が勝手に断ったんだろ!ヒロノ!」 広野を糾弾するバレンタイン。 「いやいや、オーナーの判断ですよ。代表から高石通訳に話して、監督の了承もとったと聞いていますが。だよな、高石?」 広野は通訳を見る。しかし、彼は一向に訳そうとせず、なぜか口籠もっている。ようやく口を開いたかと思うと、通訳は気まずそうにバレンタインに言った。 「I'm sorry......」 広野は愕然とした。 「通訳がバレンタインの了承をとっていなかったんですわ。なぜそれが起きたのかわかりません。そこから、これはオーナーの判断だという経緯をすべて話しましたが、後の祭りでした」 バレンタインの怒りはこの日、おさまることはなかった。こうして波乱の秋季練習が終わり、納会を「龍宮城スパホテル三日月」で行った翌日、広野は球団事務所に呼び出された。 「バレンタインがまたトレードとか言い出したんですか?」 広野が川北代表に聞いたが、様子がおかしい。伏し目がちの川北はこう告げた。 「バレンタインがお前をクビにしてくれと言っている。やはり、新庄の一件がどうしても気に食わないらしい。何度説明してもダメだった」 「いやいや、バレンタインは僕が連れてきたんですよ。その男にクビにされるって......」 「こればっかりはどうにもできない」 「......仕方ないですね。だったら、私の解任は契約切れということで発表してください」 「すまん。わかった」 しかし、事態をかぎつけた一部メディアは広野がバレンタインの逆鱗に触れたとおもしろおかしく書き立てた。 「代表、記事なんとかならないですか。事実と違うじゃないですか」 広野は呆れながら、川北に声をかける。しかし、自身もバレンタインの激昂に疲弊している川北は、広野にこう言った。 「野球界は、いろいろある。お前もわかるだろう?こんな噂も49日もすれば消えるから、我慢してくれ......」 こうして、広野は2003年12月にロッテを急遽退団に追い込まれた。このとき広野は60歳を迎えていたが、まだまだ波乱が待ち受けていることは知る由もない。広野は、ここから球史に残る出来事に関わっていくのだ。
沼澤 典史(ノンフィクションライター)