遠征の終わりが迫る最後のサミットプッシュ 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯09
2回目のサミットプッシュを終えて
2度目のサミットプッシュも失敗に終わり、ベースキャンプに戻ってきたのは11月1日だ。気がつけば日本を出発してから約1カ月が経過していた。正直なところ、もっと早くシャルプーⅥを登り終えて、もう一座登る予定をしていた別のピークにトライをしているものだと思っていた。こうすれば登れるという情報も保証もないのが未踏峰というものなのだろう。 さて、これからどうしたものかと考えることになった。日程としては14日にはバックキャラバンを開始しなければならない。ということは、遅くとも13日にはベースキャンプに戻らなければならないということになる。この時点では日程的には十分といえただろう。ただ、少し問題があった。2回目のサミットプッシュを終えたあと、サキさんの歯が痛み出したのだ。結果としては歯の痛みではなくその周囲の炎症だったのだが、痛みと腫れが続く状況では無理はできない。高所では気圧の関係で一度歯が痛み出すと悪化の一途をたどることが多いとされている。ベースキャンプから標高を上げればさらに悪化して登山どころではなくなる可能性も否めなかったのだ。3回目のトライを視野に入れつつ少しようすを見たほうがいいんじゃないかということになった。幸い天気予報では強風の予報が出ており、しばらく停滞をせざるを得ない状況ではあった。なんとかその間に良くなることを願った。
最後の下準備
私たちが2回目のサミットプッシュの疲れから回復するころ、予報では10日まで強風が続くことになっていた。まだサキさんの体調も万全ではないこともあり、強行プランにはせず、稜線に出る前までの部分を時間短縮して通過できるよう下準備をすることにした。 11月6日から最後のサミットプッシュに向けてキャンプ地の整備を開始した。プランとしては、いままで使用していた約5、100m地点のTC1に軽量テントを設置し、さらにその次の約5、300m地点のハイキャンプでの宿泊を取りやめ、氷河上となる5、600m地点の付近にファイナルキャンプを新たに設置することとした。ファイナルキャンプを上げることでなんとか前衛峰タナプーを早い時間に通過して可能性を引き上げたいという考えだ。 元気になってきたサキさんにTC1への荷上げをお願いし、さらに金子くんと石川でファイナルキャンプの設営に向かった。私たちふたりはベースキャンプから標高差1、000m超えの荷上げとなり、ベースキャンプに戻るころには日が暮れていた。先にTC1への荷上げを無事に終えたサキさんが夕食を摂らずに私たちの帰りを待っていてくれた。花谷さんのいない遠征後半戦、3人で考えて試行錯誤をしていくなかで、同じ目標に向かう楽しさみたいなものを感じ始めていた。