なぜ栃木や群馬などの「官製富裕層ツアー」が失敗するのか? 嬉野の「ティーツーリズム」に外国の富裕層が殺到する理由
これは私の経験からも明らかです。少し前、「ザ・ビートルズ」で有名なイングランド北西部にあるリヴァプールに、街の中心部再生についての調査に行ったときのことです。 ■「官製の富裕層観光」が成功しない必然 再生委員会の会長さんは保険会社創業者などの豊富なビジネス経験を持つ方で、中心部再生についての成功話を豊富な具体例とともに語ってくれましたが、実はこの会長さんがちょうど日本に約1カ月間旅行をする直前でした。私が「どんな形で旅行を決めたのですか?」と聞くと、リヴァプールにある、日本人が個人で経営している富裕層対象の会社と相談して決めた、という話をしていました。
このように、外国人富裕層は、国内にいる素人が、念仏のように「ふゆうそう、ふゆうそう」と唱えて、豪華なパックツアーに仕立てればお金をじゃんじゃんむしりとれる、といったような簡単な客層ではないのです。 世界中の観光地に行った経験を持つ「旅行の玄人」である富裕層にとって「価値のある観光」とは、国や地方自治体が補助金を配れば簡単にできるようなものではありません。自ら世界中を旅して旅の価値を理解しているような人にこそ、企画できるものです。
例えば、今や東京・銀座と土地の値段があまり変わらないとも言われる北海道のニセコエリアにおいても、売り出されている富裕層向けコンドミニアムに投資をしているのは、香港などの富裕層であったりします。 また、同地で旅行者向けに夏はラフティングやカヌー、冬はスキーから乗馬などに至るまで、さまざまなアクティビティを提供している日本人も、商社で海外勤務経験を持ち、世界各国を旅してきた人だったりします。自分たちが大した旅もしていない人が、表面的な「富裕層観光」のイメージだけで企画しても、うまくいかないのは当然です。
冒頭でいきなり栃木県の恥ずかしい例を挙げてしまいましたが、このほかにも群馬県や宿泊業者が昨年夏に掲げた3泊4日の「リトリート観光」(日常の場所を離れ、仕事や人間関係で疲れた心や体を癒やすのが目的)の申込者がゼロだったりと、「官製の富裕層観光企画」はことごとく失敗しています。私は、行政は人口減少社会への対応など、行政にしかできないことに、もっと注力すべきだと思います。 それでは日本の地方での富裕層観光は難しいのでしょうか。まったくそんなことはありません。