人手不足でも技術活用進まない「日本の不合理」、政治は国民生活に直結した問題解決を議論せよ
タクシーの運転手が足りないにもかかわらず、そして、人々がタクシー不足に困っているにもかかわらず、タクシー会社の需要確保の観点からライドシェアリングが眼底的にしか認められないという現状は、何とも不合理なものだと考えざるをえない。 同様の問題が、医療や介護にもある。医療や介護の分野では、人手不足が深刻だ。そして、高齢化の進展によって医療・介護サービスに対する需要は今後ますます増えるため、人手不足への対処は、きわめて重要な課題だ。
ここでも、デジタル技術が、大きな役割を果たしうる。とりわけ、オンライン診療が広く認められれば、医療サービスを受けることが容易になる。そして、人手不足の解消に大きく役立つ。 事実、コロナ禍では、世界の多くの国で、オンライン医療が飛躍的に拡大した。日本でも、拡大の要求が高まった。 最近では、介護現場でのオンライン診療キットの活用が可能になっている。これを用いれば、施設入居者の健康データを効率的に集めることができる。現状では、スタッフが入居者を病院に連れていくために、大変な負担と時間がかかる。そうした問題を、このキットが解消する。
実証実験によると、看護師や介護士の外出業務が、このキットの導入で3割減るそうだ(「介護現場にこそ遠隔診療」、日本経済新聞、2024年9月6日)。 それにもかかわらず、日本では、医師会の反対などでオンライン診療が進まなかった。形式的には可能とされていても、実際の利用にさまざまな制約が課されるためだ。日本におけるオンライン診療の比率は、諸外国に比べて、きわめて低い。 ■技術の活用による人手不足解消を総選挙の争点に
運転手問題でも、オンライン診療問題でも、技術的には可能であるにもかかわらず、1部の利害関係者の反対と抵抗で実現できない。これは、なんとも不合理なことだ。 政治は、こうした場面でこそ、是非、事態を改善する力になってもらいたいものだ。それにもかかわらず、自民党総裁選でも、立憲民主党代表戦でも、この問題が争点として議論されていないのは、なんとも残念なことだ。 秋には総選挙が行われる可能性が高い。是非、そこで、国民生活に直結するこうした問題を議論してほしい。
野口 悠紀雄 :一橋大学名誉教授