「踊る大捜査線」で欠けていた室井慎次の最終章 脚本・君塚良一が“室井の終焉”を執筆した理由
室井を再演した柳葉敏郎は、君塚から亀山プロデューサーに宛てたメールに心を動かされ、今作への出演を決意したという。君塚は「室井を役として成仏させたい」とメールに記していた。「『踊る』をもう1回やりたいんではないんです。青島(俊作/織田裕二)刑事もすみれ(恩田すみれ/深津絵里)さんもどこかで生きている感じが僕にはあるんですけど、室井さんはどう考えても当時と立場や役職が変わっているはずだから、室井さんに決着をつけたかったんです」 室井が故郷・秋田で里子たちを育てているという設定は、当初から考えていたという。「プロデューサーとのご相談ではあるんですが、彼なりに青島との約束を守れなかったことの償いはしているだろうと思いました。僕の中のテーマに、ずっと犯罪被害者の問題があるんですね。ですから、犯罪に関わった周りの家族を支援しているのではないかというのは、自然な流れでした」と明かす。2009年に自身が脚本・監督を手掛けた映画『誰も守ってくれない』は、主人公が犯罪加害者の家族を守るという直球のテーマだった。君塚のこだわりがわかる。
擬似家族のホームドラマ
“鎧”ともいえるスーツとコートに身を固めていた室井は、畑仕事をしながら子育てをしている。今作を観たファンは、最初大きな驚きを覚えただろう。「それはそうだと思います。だから、今作はゆっくりはじまっているんです。回想シーンもたくさん入れてね」と君塚は打ち明ける。「僕やプロデューサーの中では、畑を耕して、果物や野菜を育てて、お米も作っている室井が、かなり早くからイメージとしてありましたけど、観る方はそうではないですからね。最初は、事件は入れず、子どもたちとの話にしようと思っていました」 君塚は当初の構想を、「育てている子どもたちの中に、ちょっとミステリアスな子が入ってきて、その子が出来上がった疑似家族を壊しにかかるんです。家庭内の心理サスペンス、あるいはスリラーみたいな方向です」と明かす。「ミステリアスな子という定石で、『踊る』史上最悪の凶悪犯・日向真奈美(小泉今日子)の名前が上がって、娘という設定は当然のように出てきました」