早大卒、一流企業勤務の30代男性が「転職地獄」に陥った理由…公認心理師が「1日に3つ」ノートに書かせた内容
■「穏やかな気持ち」は、まわりの人にも伝染する 仕事で悩むクライアントさんには「まず、自分のやりたいことを大切にした上で、やらなければいけないこと、社会貢献の3つでバランスをとりましょう」と伝えています。これは心理学とインド哲学などの学びを私が独自にアレンジした考え方です。 自分が穏やかな気持ちでいると、その感情状態は「ミラーニューロン」(神経細胞)を通じて周囲の人々にも伝わりやすくなり、他者の感情も穏やかになる可能性が高まります。逆に怒りや苛立ちの感情を抱いていると、周囲の人も模倣しやすくなります。また、ある人の感情や態度が無意識に他の人に伝わり、周囲の人々も同じような感情を共有する「感情伝染」という現象もあります。 社会貢献というと特別なことに思えますが、このように自分が変わるだけで関わっている社会をよくできると知ることも大切だといえます。 ■「ポジティブシンキング」の危険な側面 また、「最終的に自分はどうなりたいか」カウンセリングの目標を聞きます。Aさんは「くよくよ悩むことが多いので、ポジティブ思考になりたい」とおっしゃいました。これはポジティブシンキングと呼ばれるものです。 一見、前向きですばらしい目標に思えますし、実際に同様の目標を持つクライアントさんもたくさんいます。でも、実はこれこそがAさんを苦しめている原因なのです。なぜなら、「ポジティブでありたい」と願うポジティブシンキングは、ネガティブな自分を否定する自己卑下につながるからです。 大切なのは、失敗や困難に対して「ネガティブになることは誰にでもある普遍的なものである」と知ること。そして、いつでもポジティブでいることを目指すのではなく、ネガティブもあっていいと許容することです。逆説的ですが「ネガティブはダメだ!」と追い出すのではなく受け入れると、心に余裕が生まれ自然に前向きになれるのです。自信をもつことができるのは、マイナスに思える部分も含めた自分を受け入れる「自己受容」ができた時だからです。 Aさんは前職への未練を取り除けないからうまくいかない、ネガティブな自分でなくなれば元気になれると考えています。しかし、「これがなくなれば」と思えば思うほど、そこに意識がいってしまい、思考は大きくなっていきます。 ポジティブシンキングはよい思考のように思われがちですが、ネガティブな自分へのダメ出しが元になっているのなら、とても危険だと思います。 こうしたダメ出しは、理想と実際の自分とのギャップが元になっていることが多いですが、その理想像は心から望んでいる姿なのか。親などの影響で作られたものではないか考えてみることも大切です。 心が疲弊してカウンセリングに訪れるクライアントさんの中には、若い時は高い理想に近づくためにがんばれていたが、年齢を重ねて無理が出てしまう人が少なくありません。