広島・福山で400年続く和菓子屋「地方には地方のビジネスや承継がある」 非効率であっても紡ぐ「文化」とは
広島県福山市で創業400年の歴史をもつ和菓子店「虎屋本舗」は、270年以上続く虎模様のどら焼き「虎焼」や、たこ焼きやコロッケそっくりの「そっくりスイーツ」で知られる。2021年に17代当主となった高田海道氏(37)は、地方都市の企業を承継していくことは、都会のあり方とは異なる視点が必要だと感じている。地域とともに歩む老舗を継ぐことの意味を聞いた。 【動画】事業承継は社会問題でありチャンス
◆「非効率」な和菓子の意味とは
----2021年に社長に就任し、まず取り組んだ会社の変革は何でしょうか? 従業員の働き方を見直し、残業時間や有休消化率を改善しました。 また、職人それぞれに頼っていた菓子作りの基本部分をマニュアル化しました。 こうしたことを実現するため、赤字経営を黒字にしなければならないので、直営店ばかりに頼っていた販売は、百貨店カタログなどの外販にも力を入れるようになりました。 さらに、新しい店の形態として、神辺店をオープンキッチン併設の店舗にしました。 ワークショップなど開いてインスタグラムに載せているので、地元の方々が頻繁に使ってくれるようになりました。 地域コミュニティの巻き込みを図った店舗を、今後展開していくつもりです。 ----逆に、変えずに守り続けていることは? 中秋の名月の十五夜団子のように、短期間しか売らない菓子があります。 私は3年間ほどビジネススクールで勉強したこともあり、非効率だからやめようと父に提案しました。 父は「非効率かもしれないが、菓子屋に季節感がなかったらつまらない店になる。 やめてはいけないものだ」と叱られました。確かに言う通りだなと思いました。 また、熨斗紙は今も手書きです。 私が入社した時、時代遅れだと感じたことの一つでしたが、やはり手書きがいいですね。 すべて現代風に変えるのが必ずしも良いことではないと、だんだん分かってきました。
◆「ベテランのおばあちゃん」がいる理由
----「せとうち和菓子キャラバン」という取り組みについて教えてください。 10年ほど前から、学校や町内会などに出張して和菓子づくり教室を開いています。 家族や学校では、節句や中秋の名月などで伝統文化をつむぐ機会は減っていますが、それをフォローするつもりでやっています。 教室は、離島でも山の上でもどこでも行きます。 瀬戸内の過疎化が進む島で教室をしたり、島特産の食材を利用したお菓子を商品化したりする試みが「せとうち和菓子キャラバン」です。和菓子を通じた持続可能な社会へのアプローチです。 またJICA(国際協力機構)などからの依頼で、外国人向けのWEB教室も開催しています。 和菓子とセットで、平和や文化について学び合ういい機会になります。 ----従業員の年齢層が高いことも、虎屋さんならではのSDGsといえますね。 うちは定年が75歳なので、従業員の年齢層は高いです。 だいたい60代が4割、70代が1~2割ですね。地方の労働人口の縮小は全国的な共通課題ですが、じゃあ若い人を入れる、という簡単な話でもない。 地方のシルバー人材は結構元気な人が多く、働く場所を提供するとすごく頑張っていただけるんです。 何より、店や現場に「ベテランのおばあちゃん」がいるだけで、親しみやすさや安心感が生まれます。 お客さんにちょっとおまけを渡したり、常連のお客さんとお茶を飲みながら話したり。 都会と違って地域に根差したお菓子屋さんですし、地域とのつながりを担っているのは、人生経験豊富でコミュニケーションの上手な高齢者の方々です。