広島・福山で400年続く和菓子屋「地方には地方のビジネスや承継がある」 非効率であっても紡ぐ「文化」とは
◆菓子を商うのではなく、文化を商う
----今後の会社のビジョンをお聞かせください。 プッシュ型の営業はもうやめています。 そこに人を割くより、良い商品をつくることに力を入れています。 父の代からやっている「たこ焼き」や「手まり寿司」に見える「そっくりスイーツ」などユニークな商品の開発も、職人さんは積極的に提案してくれています。 虎屋本舗の商訓に「他の商売には決して手を出すな」とあるため、業種をまたぐような新しい取り組みは考えていません。 ただ、先ほどご紹介した神辺店のように、9つある店舗を順番に改装しています。 今年リニューアルした駅ナカの店舗は、畳を敷いたスペースで小規模なお茶会ができるようにしました。 他に、お城の近くにある文化施設を借り、着物で国産ワインと和菓子を楽しむイベントを開くなど、店舗や商品に加え、和菓子に親しんでもらえる場を作っていきたいと思います。 ただ和菓子を作って商うのではなく、「文化を商いとする」というのが、会社の方針です。
◆都会と地方は、商売や事業承継が異なる
----最後に、高田代表は事業承継の在り方をどのように考えていますか? 地方の事業承継と都市圏の事業承継はちょっと意味合いが異なり、同じ目線では語れない気がします。 都市圏では、スピード感やマーケットに対する考え方が地方と全然違う。 地域コミュニティや地元の特産品を大事にして、地域とともに歩むスタイルは、広島の瀬戸内におけるベストの形と考えています。 地方では、私と同世代の事業承継者に、わりと優等生タイプが多いです。 基本的に先代の教えを守り、従業員と地域のお客さんを守っていく。ただ、自分なりに文化を新しくしたい気持ちはあるので、お客さんや世間がまだ言語化できてないニーズを汲んで、何かを創造して、初めて自分が継いだ意味があると思っています。 事業承継は、先代や社内との関係性だけで語られるものではなく、地元や地域コミュニティなど、もう少しマクロな視点で追求していくことかもしれません。
■プロフィール
高田海道(たかだ・かいどう)氏 1987年、広島県生まれ。早稲田大学政治経済学部を2009年に卒業後、不動産会社勤務などを経て、2013年に現在勤める株式会社虎屋本舗に入社。2021年5月18日、東京オリンピックの聖火ランナーを務めた日に十七代目当主に就任。「虎焼」をはじめとする伝統の和菓子を伝えるとともに、斬新な発想の新作菓子も数々世に送り出している。和菓子教室や、オープンキッチンを備えた新しい形の店舗など、地域コミュニティを意識した事業を展開。第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」受賞。