障害者への性暴力、調査して判明した「おぞましい実態」 加害者の7割は近しい人 「なかったこと」にできるから?
象徴的な例が、イベント中に胸を触られた韓国のアイドルに対して向けられた「露出が多い服を着ている方が悪い」というネット上のコメントです。 ジャニー喜多川氏から性加害にあった被害者が誹謗中傷にさらされて亡くなりました。根底に「被害者も実はそれほど嫌ではなかったのではないか」などのレイプ神話が隠れていると感じています。 また「障害のある人は性暴力を受けない」というアンコンシャス・バイアスもあると私は感じています。社会は実際に起きている被害に目を向けようとしていないのですから。 ▽同意なければ罪 ―今年の7月、刑法が改正され、同意のない性交とわいせつ行為は処罰対象になりました。 これまでの刑法は、加害者が被害者の抵抗を著しく困難にする「暴行・脅迫」があった場合に強制性交罪が適用されてきました。被害者がどれだけ激しく抵抗したかが問われていたんです。 しかし、改正された刑法では、強制性交罪と準強制性交罪は「不同意性交罪」に変わりました。強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪も「不同意わいせつ罪」に統合されました。
これは被害者が恐怖で「フリーズ」したり、被害が長期にわたり抵抗できない心理状態に追い込まれたりした状況での性交やわいせつな行為は、処罰されるということです。 ―障害者にも適用されるのでしょうか。 この不同意性交罪と不同意わいせつ罪が適用される八つの要件の中に「被害者に心身の障害があること」が入りました。 もちろん、これで全てが解決できるわけではありません。しかし一歩、前進したと評価できます。 ―性暴力は、どうすれば減らせるでしょうか。 性暴力は上位の地位や立場にある人から、弱い立場の人に向けられることが多い犯罪です。しかし立場の強い人の発言が信用され、立場の弱い障害のある人の声は否定されるのが日本の社会です。 悪いのは加害者であって、被害者ではありません。 障害者が性暴力を受けない社会に変えていくためには、国際水準にのっとった性教育が必要です。それは人権と必ずセットでなければなりません。日本はこの点で決定的に遅れています。 × × ×
岩田千亜紀(いわた・ちあき) 自閉症スペクトラム障害がある母親の子育ての困難さや、発達障害がある女性が夫から受けるドメスティックバイオレンスなど、障害のある女性の生きづらさや暴力による被害などを研究。「障害のある性暴力被害者の被害状況と相談支援の現状と課題―性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに対する調査から―」も2023年に発表した。