「同じ失敗はもう起きないだろう」…「H3」試験機の再挑戦、15日に打ち上げ迫る
部品適合性など広く検証 失敗原因、絞り込まず時短
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」試験機2号機の打ち上げが15日に迫った。2023年3月に打ち上げた同1号機は2段目のエンジンが点火せずに失敗したが、約1年間の原因究明や対策の検討を経て2回目に挑む。打ち上げを成功させ、災害時の観測や気象情報の取得、偵察などの役割を担う人工衛星や惑星探査機などを国内から宇宙に輸送する新たな手段の確立を目指す。(飯田真美子) 【写真】「H3」試験機の2号機 今回打ち上げるH3試験機2号機は見た目は同1号機と大きく変わらないが、原因を特定して中身に対策を講じた。同1号機の打ち上げ失敗の原因究明はすぐに始まり、2段目のエンジンに関連した装置で過電流の発生が主な要因であることが早期に分かった。だが詳細な検証には半年以上の時間がかかり、JAXAの岡田匡史H3プロジェクトマネージャは「原因を詰めていた23年夏が一番苦しかった」と振り返る。その中で、点火プラグ内でのショート(短絡)、信号の増幅を行うトランジスタへの定格以上の電圧印加、推進系制御装置での部品の故障の三つのシナリオが浮かび上がった。 「従来機(H2A)は実績があり、(その信頼が悪い方向に作用し)H3への部品の適合性や製造・検査への対策に不十分なところがあった」(岡田プロマネ)と強調。三つのシナリオすべてに対策し、電気部品の絶縁・検査強化、部品の選別や削除などを徹底した。さらにH2A以前から宇宙開発で使われ続けている“枯れた技術”を検証し、原因以外の部分でも設計や部品などの適合性を確かめて反映した。 一般的には原因を一つに絞り込む。だがH2Aが50機で引退となり、宇宙への輸送を待つ人工衛星などが多いといった背景もあるため早急な再打ち上げが求められていた。そこで、原因を一つに絞り込まずに主要と見られる三つの原因にすべて対策を講じることで短時間での再打ち上げの実現につなげた。 今回のH3試験機2号機には、当初は地球観測衛星「だいち4号」を搭載する予定だったが、同1号機の失敗を受けて大型の衛星を積む位置にはダミー衛星を載せる。一方で重量の余剰分を利用して搭載する相乗り衛星は、宇宙への輸送費は無償だが打ち上げが失敗して衛星が失われてもJAXAが補償しない条件で公募を実施。キヤノン電子の光学地球観測衛星「CE―SAT―1E」とセーレンなどが開発した小型人工衛星「TIRSAT」が選ばれた。 CE―SAT―1Eは17年に打ち上げたCE―SAT―1の後継機となる小型地球観測衛星。望遠鏡部分にキヤノンのデジタル一眼レフカメラが使われており、キヤノン電子衛星システム研究所の河面郁夫副所長は「昼間の地表を高感度で撮影できる」と説明。小型衛星だが最大80センチメートルという高い分解能を持つ。 H3試験機2号機に搭載するキヤノン電子の小型衛星「CEーSATー1E」 TIRSATは経済産業省の委託事業で開発した遠赤外線カメラが搭載された衛星。工場などの熱源などを宇宙から感知し、稼働状況を推定できる。民間の地球観測衛星が打ち上がることで、さまざまな地上のデータ取得が可能になる。 H3は従来機H2Aの後継機として開発が始まり、輸送コストは従来の半額である約50億円が目標だ。そのために宇宙用でなく民生部品を活用し、他のロケットと部品を共用するといった工夫をしている。米主導の有人月探査「アルテミス計画」で物資を輸送する手段としても活用される見込みで、国際的にも注目度は高い。 カイロスが打ち上げられる予定の和歌山県の発射場「スペースポート紀伊」 海外では米国のスペースXを中心に世界中で宇宙輸送ビジネスが活発化している。日本は打ち上げ回数は少ないが、安心安全を売りにロケット開発を進めてきた。だが、国内でも高頻度で安価な宇宙輸送の手段が求められている。 こうした状況の中、キヤノン電子などが出資するスペースワン(東京都港区)は、契約から短期間で衛星を打ち上げるサービスの確立を目指しており、3月9日にも小型ロケット「カイロス」初号機を打ち上げる。スペースワンの遠藤守取締役は「打ち上げまで慎重に確実に準備を進めたい」とコメント。宇宙輸送の手段が増えることで、日本の宇宙開発の推進につながると期待される。