セアカゴケグモの移動法ほか、クモの外来種の裏話(奥村賢一/クモ研究者)
調査の結果、過去同様に洞内(図2)から複数個体を確認することができた(図3)。生息環境は普段ドアで閉鎖されており、手前の西洋邸宅(オルト邸)跡が大規模な改修工事中であることから生息状況が気になっていたが、定着は継続していることが分かった。また今回初めて隣接する煉瓦造りの倉庫跡(図4)内でも探したがこちらでは発見できなかった。
このことから本種は洞窟に好んで棲み、外来種であるにも関わらず分布拡大をしづらいという証拠事例にもなる。同属の近縁種で八重山諸島に生息するウルマヤチグモSpiricoelotes urumensis (Shimojana, 1989)も洞内を中心に生息しており、生態面で類似していることも同様の参考事例である。ちなみに洞内ではヒラタグモ、アシダカグモ、オオヒメグモといった人為環境でよくみられる種も確認し、本種が見つからなかった倉庫跡内でもヒラタグモとアシダカグモは確認できた。 以上のように本種は分布拡大をしづらいこと、在来種との競合もなく生態系への影響はほぼ皆無であることなど特殊な事例の外来種であり、むしろ絶滅危惧種的存在であると認識している。
九州、沖縄に大量定着のユウレイグモ外来種
足が非常に細長いクモとして知られるユウレイグモ類は屋内でよく見られるイエユウレイグモという種が代表的である。本種に近縁のオダカユウレイグモ(冒頭の写真)という外来種が1981年に愛知県で発見されたが、発見後それほど時を経ない調査でもすでに九州、沖縄では広範囲に大量の個体が定着していたことが確認されている。 本種はアフリカ原産とされているが、既にヨーロッパ、アジア、南北アメリカ、オーストラリアの温暖な地域を中心とした広範囲で分布を拡大している。国内では飼料工場や厩舎などでの発見事例が多く、家畜用飼料などの運搬とともに移入、分布拡大をしたとされるが、九州では民家車庫や橋桁下、公衆トイレ内などからも発見されており、特定の場所に限定されていないことがすでに判明している。