考察『光る君へ』42話「この川でふたり流されてみません?」今度こそ一緒に逝く、でもあなたが生きるなら共に生きる…まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の「川辺の誓い」
更にその先へ
子どもの頃のように家の掃除をし、母の形見である琵琶を弾く。超大作・『源氏物語』を書き上げ己の使命を果たして、藤式部からまひろに戻ろうとしている彼女のもとに、百舌彦(本多力)が訪ねてきた。 百舌彦「実は、殿様のおかげんがおよろしくなく……」 これを傍で聞いていた乙丸(矢部太郎)の表情といい、道長の危機に際しての従者たちの反応がとてもいい。まひろと三郎の頃からのふたりのこれまでを、すべて知っている従者でなければ、道長を救えるのはまひろだけだと気づけない。 道長とまひろを見守ってきた者として、本多力も矢部太郎も素晴らしい芝居をしている。 まひろは百舌彦に伴われ宇治にゆく──。 宇治殿と呼ばれた道長の別荘は、10円硬貨でおなじみ、国宝の平等院である。 すっかり弱ってしまった道長を目にして涙するまひろ、傍に座ったまひろを見たときの道長の表情。おそらく道長は、ずっとまひろの夢を見ていた……だから、彼女を見てもすぐには現実だとわからず、間を置いて驚いたのだ。 出会った頃のように明るい陽光に包まれて、ふたりで川辺を歩く。 まひろ「私との約束はもうお忘れくださいませ」 道長「お前との約束を忘れれば俺の命は終わる」 まひろ「ならば私も一緒にまいります」「この川でふたり流されてみません?」 道長「お前は俺より先に死んではならん。死ぬな」 まひろ「ならば……道長様も生きてくださいませ。道長様が生きておられれば、私も生きられます」 道長の思いが溢れて涙となった。 彼の「藤原道長」としての人生は、あの六条の廃屋敷から始まった。まひろは、遠くに行こうと抱きしめた自分を振り払い「一緒に遠くの国へは行かない!」「都にいて政によってこの国を変えてゆく道長様を死ぬまで見つめ続けます」と言った。心優しき三郎は、あの夜の契を果たすために、陰謀と権力争い渦巻く内裏に身を投じて藤原道長であり続けた。手にした栄光は三郎を飲み込み、痛めつけた。心身ともにぼろぼろに傷つき、辿り着いたこの川辺で、まひろは今度こそあなたと一緒に逝く、でもあなたが生きるなら共に生きると微笑んでくれたのだ。 人生にはどこかで「生きていてよかった」と思う瞬間が訪れる。三郎にとってのそれは、今まさにここだ。 ここから離れて歩き出せば、また藤原道長としての人生が待っている。それでも、愛する人が共に生きると言ってくれた後の世界には、これまでとは違った景色が広がるだろう。 そして、まひろもまた書き始める──全てやりきったと思ったが、更にその先へ。人生は生きている限り続くのである。新たな創作への道に寄り添う音楽が美しく、優しい。 「いずれの御時にか……」は天から降ってきたけれど、今度は地から水が湧き出るように。 「光隠れたまひにし後、かの御影に立ちつぎたまふべき人、そこらの御末々にありがたかりけり」 『源氏物語』42帖「匂宮(におうのみや)」! 光源氏の子や孫たちの、新たな物語が幕を開ける。 次週予告。三条帝の体調不良。「殿に愛されてはいない……」倫子様の言葉にドキッとする。双寿丸が大宰府に! ついにあの戦いが迫っているのか。賢子「母上は振られたことある?」まひろ「私の胸で泣きなさい」まひろっち、男前……! 43話が楽しみですね。光る君への最終回・48話は12月15日放送、残りあと6話! ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、木村達成、南沙良、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
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