「自社の事業は何か」ドラッカーのシンプルな問いに答えることが、なぜ経営トップにとって極めて重要なのか?
部品メーカーや素材メーカーは顧客を絞り込むのが難しい場合があります。ただ、「市場の可能性とトレンド」は顧客企業によって違いがあります。ある部品メーカーは、数ある顧客企業の中から、成長の可能性が極めて高かったスマホ業界にいち早く経営資源をシフトさせることによって成功しました。 次の「現状の製品やサービスでは満たされていないものは何か」という問いを考え続ける企業かどうかが、ただ単に波に乗るだけの企業と成長し続ける企業とを分けることになり、「波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する*85 」ことになるのです。 事業に関するドラッカーの3番目の問いの「何をこれからの事業にすべきだろうか」は、2番目の「自社の将来の事業は何か」という問いとは種類の異なるものです。2番目の問いは現在の事業の延長線上の問いですが、3番目の問いは事業領域の線引きのし直しのための問いです。つまり、「われわれは正しい事業にいるか、事業を変えるべきか*86 」を問うためのものなのです。 もちろん、意図してではなく、偶然によって新しい事業に参入する場合が多いのも事実です。私の顧問先の企業を見ると、偶然によって新しい事業が生み出された場合の方が多いように思えます。ただ、新しい事業へ参入するかどうかの決定は経営陣が行わなければなりません。 「何をこれからの事業にすべきだろうか」という問いに答えるには、当然ながら新しい事業の創造について考えなければなりません。ドラッカーの未来創造の方法論については、この後詳しく説明していきます。 ただ、ドラッカーは、「新事業への参入の開始と同じように重要なこととして、事業の目的とミッションに合わなくなったもの、顧客に満足を与えなくなったもの、業績に貢献しなくなったものの体系的な廃棄*87 」が重要であると言います。 つまり、「何をこれからの事業にすべきだろうか」の検討の出発点は、「『どの新規事業に参入すべきか』ではなく、『既存の製品ラインや事業のうち、撤退すべきものはどれか』『重点分野から外して縮小すべきものはどれか*88 』」なのです。 限られた資源の中で何かを得ようとすれば、まず捨てることから始めなくてはなりません。「何かいいものが出てきたらそちらに移行しよう」というような態度では、新しいものは生み出せないのです。 *85 『マネジメント 課題、責任、実践』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、(ダイヤモンド社)の第7章 *86 『[新訳]現代の経営』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、(ダイヤモンド社)の第6章 *87『マネジメント 課題、責任、実践』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、(ダイヤモンド社)の第7章 *88『マネジメント 務め、責任、実践』P・F・ドラッカー著、有賀裕子訳、(日経BP社)の第7章
國貞 克則