「自社の事業は何か」ドラッカーのシンプルな問いに答えることが、なぜ経営トップにとって極めて重要なのか?
第1回で述べたように、「自社の事業は何か」という問いに答えを出すことは極めて重要です。それは、それぞれの組織が自社の具体的な目的と使命を明らかにすることです。ドラッカーは「『自社の事業は何か』という問いの答えを導くのは、経営トップが真っ先に果たすべき責務である*75 」と言います。 さらにドラッカーは、「すべての階層に、優れた知識や技能を持つ人材が大勢揃っている。(中略)彼らは、正規の組織形態がどうであれ、必然的にリスクを伴う判断、つまりは事業判断を下す。(中略)組織の全員が共通のビジョンと認識を持ち、足並みを揃えて努力するためには、『自社の事業は何か、何を事業にすべきか』を決めることが欠かせない*76 」と言うのです。 しかし同時に、この問いに答えを出すのは極めて難しいことでもあります。ドラッカーも次のように言います。「『自社の事業は何か』はほぼ例外なく難問であり、たいていの場合、答えは決して明らかではない。(中略)この問いを持ち出すと必ず、ほかならぬ経営層内部の溝や意見の違いがあぶり出される。何年ものあいだ手を携(たずさ)えて仕事をしてきて、互いの考えを理解していると信じていたのに、あるとき突然、同床異夢だったと気づかされ、愕然とするのである*77 」 逆に、「自社の事業は何か」という問いは、あまりにも自明であまりにも単純だと思われるかもしれません。「自社の事業は何か」と問われれば、石炭会社は「石炭を生産販売している」と答え、鉄道会社は「人や物を運ぶ列車を走らせている」と答えるでしょう。 しかし実は、顧客が購入しているのは商品やサービスそのものではなく、商品やサービスによって顧客にもたらされる実利なのです。ドラッカーはこれを「効用*78 」と呼んでいます。 例えば、顧客は石炭会社から部屋を暖かくするための燃料を買っているに過ぎず、部屋が快適で安価に暖かくなるのであれば石炭でなくてもよいのです。同様に、顧客は鉄道会社から自分が行きたいところに行くための移動手段を買っているに過ぎず、自分が行きたいところへ快適で安全にかつ迅速で安価に移動できるのであれば鉄道サービスでなくてもよいのです。 *74、75 『マネジメント 務め、責任、実践』P・F・ドラッカー著、有賀裕子訳、(日経BP社)の第7章 *76、77『マネジメント 務め、責任、実践』P・F・ドラッカー著、有賀裕子訳、(日経BP社)の第7章 *78『マネジメント 務め、責任、実践』P・F・ドラッカー著、有賀裕子訳、(日経BP社)の第6章。原書では“utility”です。