トランプとマスクが掲げる「言論の自由」にも一理ある、SNSが抱えるジレンマに民主主義社会はどう向き合うか
アメリカ大統領に返り咲くトランプ氏は「言論・表現の自由を守る」と宣言している。具体的には、「偽情報や誤情報を選定する学術団体やNPOに対しての補助金を停止する」という。この姿勢に共感しているのが実業家のイーロン・マスク氏だ。同氏は旧Twitter社(現X社)を買収後、偽情報などを監視する役割を担っていた人員を解雇した。マスク氏に対しては偽情報やヘイトを拡散させているとの批判も多い。「テクノ・リバタリアン」の著者、橘玲氏に、ネット上の言論空間は今後どうなるのかを聞いた。 【写真】MetaのザッカーバーグCEOにとって、むしろ投稿対応は参入障壁をつくるので好都合? (湯浅大輝:フリージャーナリスト) ■ イーロン・マスクがTwitterを買収したワケ ──トランプ氏の勝利に大きく貢献したのがイーロン・マスク氏です。マスク氏は「(合衆国憲法修正第1条にある)言論・表現の自由を守る」と宣言し、旧Twitter社を買収。トランプ氏は公約で「アメリカ市民の合法的な言論を検閲・制限・妨害することを禁ずる大統領令に署名する」と訴えていますが、トランプが返り咲いた後のSNSの言論空間は、今後どうなっていくと思いますか。 橘玲氏(以下、敬称略):この問題は複雑ですが、トランプに関していえば、自分の熱狂的な支持者である保守派や、Qアノンの陰謀論にはまっているようなひとたちが、SNSで削除やアカウントの凍結を気にすることなく、自由に発言できることを保障するのが目的だと思います。これだけでも、「トランプは約束を守った」と評価されますから。 マスクが「言論の自由絶対主義者」を自称するのは、自由を至高のものとするリバタリアン(自由原理主義者)として当然です。もともと旧Twitterのコンテンツ・モデレーション(投稿監視)に懐疑的で、2022年10月の買収後に第三者委員会を立ち上げ、独立系ジャーナリストのマット・タイービらを中心に実態を調べさせました。 その調査で明らかになったのは、実際に、保守派のツイートを非表示にしたり、アカウントを強制的に削除していたりしたことでした。ただしこれは、保守派のいうような「ディープステートの陰謀」ではなく、サンフランシスコを発祥の地とする旧Twitterにはもともとリベラルな政治信条を持つ社員が多く、モデレーターの一存でコンテンツやアカウントの削除を決めていたからのようです。 マスクはこうした調査を受けて、モデレーターたちの解雇に踏み切ります。経営者の立場からしても、コンテンツ・モデレーションは費用対効果が悪すぎるということだったのでしょう。