「病気を公開しながら、音楽を作っていく」――サカナクション・山口一郎、うつ病との闘い #病とともに
社会の在り方についても改めて考えさせられた。 「当たり前に過ごすって、すごいことだと思う。例えば会社員の人なら満員電車に乗って、上司もいて、人と自分を比べて……体調が悪くなるのも当たり前。今の社会って、あっさりと簡単に人を見放すじゃないですか。一回輪の外に出てまた中に入るのはすごく勇気がいる。傷ついたことを受け入れる社会になってほしい。きれいなリンゴも傷んだリンゴも、リンゴはリンゴですよね」 「僕が今テーマに掲げているのは『人に優しくする』ということ。その行為には一つも損がないと思うんです。一つ貸しを作ると思えばいい。仮に100人に貸しを作って、10人に返してもらえたら十分じゃないですか」
サカナクションは今月から全国アリーナツアーに出る。しかし、山口のうつ病が完治したわけではない。 「最近多いのはパニックバイ。いらないものまでネットで買ったり、お店で接客されると楽しくなってあれもこれも買ってしまったり。ソロツアーのあとも一回倒れました。がんばったらその分、人より疲れる。永遠につらい日々が続いたらどうしよう、という恐怖は常にあります。それでも、自分にはやっぱり音楽しかない」 「元に戻る」のではなく、「新しい自分」になると山口は言う。 「うつ病の自分を受け入れる。その習慣が新しい自分を生み出し、新しい音楽を作り、それをメンバーやスタッフがいいねと言ってくれたらやればいい。この病気と寄り添い、乗りこなして生きていく覚悟です」 「新しい自分」だからこその「新しい目標」もある。 「音楽やメディアを使って、うつ病になった僕の姿を包み隠さずドキュメントとして見せていこうと決めた。苦しさを知っている立場だからこそ、チャレンジしたい。それで救える人が一人でもいればいいし、何か新しい音楽の感動や考察の種を示せたらとも思う。今の僕はそこに懸けている。病気が治るかもしれないし、もしかしたら最後には死んでしまうかもしれない。どうなるか分からないけど、この病気を公開しながら音楽を発信していくことだけは約束します」