国民年金が増加、厚生年金は減少。公的年金はどうなる?
厚生労働省がついに国民年金改革に着手するという報道がありました。会社員・公務員の支払う厚生年金保険料を老齢基礎年金(以下、国民年金)に充当し、国民年金を現在の3割増しにするそうです。一方では、厚生年金の給付水準を引き下げることで、厚生年金の受給者が不利にならないようにするもよう。問題点はないのでしょうか。 ■厚生年金保険料を国民年金に流用する経緯 会社員と公務員のための厚生年金だけでは、高齢者が老後の暮らしに必要なお金を確保できないため、厚生年金保険料を国民年金の給付に回すことで、国民年金の給付水準を現在の3割増しにしたいようです。 現在、国民年金は満額で81万6000円(令和6年度)が支給されています。3割増しとなれば106万800円となります。現在の水準では月額6万8000円が満額支給額となりますが、月額8万8400円相当に増額されることになります。 本案の法律が改正され、施行されれば、適用時期から高齢者の国民年金が増額されることになります。国民年金の受給者は、会社員・公務員の他、自営業やフリーランス、主婦など、65歳以上のすべての人が対象です。ただし、増額は保険料の納付月数によりますので、国民年金保険料が免除や軽減された人は、納付期間の計算に応じて増額される見込みです。 日本の公的年金の財源は、(1)保険料収入、(2)税金、(3)積立金の取り崩し、の3本柱となります。今回の論点は、厚生年金保険料を国民年金の給付に充当することです。感覚的には、会社員・公務員の支払った保険料を、別制度の給付に充てるということですから、違和感を感じる人が多いのではないでしょうか。 ■得する自営業と専業主婦、会社員と公務員は割を食うの? 今回の改正案で最も得するのは誰でしょうか? それは専業主婦(以下、第3号被保険者)になると考えられます。何故でしょうか。第3号被保険者は、会社員や公務員である加入者(第2号被保険者)の配偶者であり、かつ社会保険上の扶養を受けている人です。 今でいうところの、130万円の壁や106万円の壁に守られている人と言っていいでしょう。第3号被保険者期間中はそもそも国民年金保険料を支払っていない、あるいは第3号被保険者になる前、第3号被保険者から第1号または第2号被保険者となった人です。第3号被保険者自体を廃止しようという話も出ていますが、第3号被保険者がさらに有利になってしまうという矛盾を生じる可能性があります。 また、自営業の人たちも国民年金保険料の納付のみであるにもかかわらず、厚生年金保険料によって年金額が増額されるわけですから、納付保険料に対する受給額の割合が改善します。 一方で、会社員や公務員の受け取る厚生年金(老齢厚生年金)は給付を抑制するとあります。ただでさえ、マクロ経済スライドで減額されていますので、どの程度の減額幅になるのか、注目が集まりそうです。 この改正案は、高齢者や専業主婦に対する、忖度や優遇のように見えますから、世代間論争の火種になることでしょう。直近では、住民税非課税世帯への給付金に反対する人が多いという世論調査結果も出ており、高齢者かつ国民年金のみの受給者への風当たりも強くなることが予想されます。 ■いつ改正されるの? まだ「案」に過ぎないとはいうものの、2025年度に国会で成立させたいようですから、2027年~2030年くらいにかけて実施されることが考えられます。 また、いきなり年金を増やすのか、段階的に増やしていくのかがこれから議論されることになるでしょう。この法律改正により、2025年7月に実施される参議院議員選挙結果に影響が出る可能性があります。 この改正案、皆さんは賛成ですか?反対ですか? 高橋 成壽(たかはし・なるひさ)/1978年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2001年にFP資格を取得。投資や保険などのキャリアを経て、2007年にFPとして独立。自身の投資経験と世界の金融ネットワークを活用し、シングルマザーから上場企業の経営者まで、1人ひとりに合わせたお金のアドバイスを提供している。有料のFP相談「 寿FPコンサルティング 」、無料のマネー相談専門家マッチング「 ライフデザインセンター 」を運営。2020年より東海大学非常勤講師として学生向け金銭教育に従事。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
高橋 成壽