「安倍政治」からの脱却へせめぎ合い:石破新政権誕生の自民党
竹中 治堅
石破茂首相の新政権が誕生。首相は就任の8日後、10月9日に衆議院解散に踏み切った。自民党では各種人事や衆院選の公認問題への対応を巡り、「安倍色」を薄める動きが徐々に見えてきた。
岸田文雄首相の後任を選ぶ自民党総裁選は、9人もの候補者が名乗りを上げ、これまで最も党内野党的な立場にあった石破茂元幹事長が新総裁に選ばれた。政治資金パーティーを巡る「裏金問題」で大きな批判を浴びている同党は、「振り子の原理」を働かせ、一定の「党の刷新」を国民にイメージさせる結果となった。同時に、石破新首相の誕生から党役員・新内閣の人選、解散・総選挙に向けた一連の流れを見ると、自民党内で穏健保守・中道寄りの勢力が勢いを増し、いわゆる「安倍政治」からの脱却を図る動きが見て取れる。
決選投票で「反高市」に雪崩
総裁選では、第1回投票で高市早苗・経済安全保障担当相が1位に、石破氏が2位となり、若手の小泉進次郎元環境相は脱落した。当初、小泉氏は有力候補と言われたが、目玉の政策として「解雇規制の見直し」を打ち出したのは、明らかに戦略ミスだった。また、公開討論会での「中国に行ったことはないが台湾を訪れたことはある」という趣旨の発言が飛び出すなど、不安を抱かせるような事態もあって伸び悩んだ。 決選投票では、裏金問題に関係した議員の多くが推薦人となり、党内では強硬保守派の高市氏の政治姿勢を不安視する議員・地方組織が、石破氏支持に回るという流れになった。 今回の裏金事件に端を発した国民の「自民党不信」は非常に深刻で、2009年政権交代時の比ではない。政権交代が起きたのは06年から09年まで毎年首相が代わり、自民党の政権担当能力に疑問が持たれたことが主因だった。しかし、今回は「政治とカネ」により、党や党政治家の信用が大きく毀損(きそん)されている。政治資金の不記載問題は1988年のリクルート事件、92年の東京佐川急便事件に匹敵するスキャンダルとなった。大局的に見ると、これまでの党内力学を温存するのでは乗り切れないという危機感のために、「振り子の原理」が働き、党内野党が長く、権力の中枢から最も離れた場所にいた石破氏が、新総裁に選ばれることになった。