「安倍政治」からの脱却へせめぎ合い:石破新政権誕生の自民党
派閥のない自民党の今後
自民党は今後どう変わるのか、変わらないのか。今回の裏金事件を経て、自民党の各派閥が以前の姿に戻ることはないだろう。派閥のメンバーが領袖(りょうしゅう)に忠誠を誓い、領袖は所属議員の「カネ、選挙、人事」の面倒をみる。長く続いたこの派閥の構造は消滅し、党内グループが新たに生まれたとしても、サークル、同好会に似たような性格になるだろう。 派閥が自民党内で担っていた機能の一つに、「所属議員の評判をまとめたり、能力評価を行ったりする」というものがあった。これまで党人事や閣僚・政務三役人事を行う際、首相は各派閥が伝える候補者も念頭におきながら調整した。各候補者の資質や得意分野などは派閥段階である程度のスクリーニングを経ているため、派閥の推薦が人事調整を容易にした。今後、派閥なしで多くのポストをどう差配していくのか、これは難しい作業となるだろう。新政権は今回、ほとんどの副大臣、政務官を再任させており、衆院選後の対応が注目される。 自民党内には(1)規制改革に積極的か、それとも既存の業界ルールを守ることを重視するのか(2)家族や夫婦のあり方、天皇制や靖国神社について保守的な考えであるか否か(3)財政規律を重視するのか、それとも金融政策、財政政策の推進に積極的か―などの分野で大きな政策の「断層」がある。派閥を中心とした会合がなくなったことで、政策決定にどのような影響が出るのか。筆者は、官邸の力が以前より強くなっている一方で派閥が解消されれば、政策決定はより容易になると予想する。首相の政策に反対する議員がかなりいる場合でも結集、意思疎通することがより困難になるからである。 もっとも、前提は衆院選で首相が与党を勝利に導くことである。首相は与党が過半数を獲得することを勝敗ラインに設定しているが、指導力確保には与党の議席が過半数をかなり上回ることが必要である。勝利した場合でも首相の指導力は、世論が内閣をどの程度支持するかによっても左右されることになる。
【Profile】
竹中 治堅 nippon.com 編集企画委員長。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。