「安倍政治」からの脱却へせめぎ合い:石破新政権誕生の自民党
世代交代打ち出さず、「本流」の人脈取り込み
党人事、新内閣の閣僚人事を見るとまず気がつくのは論功行賞色が強いことである。石破氏は推薦人から村上誠一郎総務相をはじめ6人の閣僚を起用している。2人の官房副長官も推薦人である。ただ、さらによく見ると、積極的な財政出動一辺倒の経済政策や超タカ派の保守姿勢など、「安倍路線」の突出した部分を代表する勢力を遠ざけ、穏健・中道保守派やこれまでの自民党の「本流」に連なる人々を要所要所に配置している。 これを象徴するのが鈴木俊一総務会長(父は鈴木善幸元首相)、小渕優子組織運動本部長(父は小渕恵三元首相)、小泉進次郎選対委員長(父は小泉純一郎元首相)という党人事だ。福田達夫氏(父は福田康夫元首相)も幹事長代行として党執行部入りした。 閣僚人事では、総裁選に出馬した加藤勝信氏(旧茂木派、岳父が加藤六月元農水相)を財務相に起用、林芳正官房長官(旧岸田派)を留任とした。世代交代や新鮮味を感じる布陣と感じる人は少ないだろう。なお、党内の権力バランスを考えると、岸田前首相は相当の影響力を持つことになるはずである。
「政治とカネ」が衆院選最大の争点
石破新首相は4日の所信表明演説で、「国民の納得と共感を得られる政治を実践する」と強調。「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」という5本の柱を掲げたが、ここに「経済」という文字は見られない。石破首相がこれまで「三本の矢」や「新しい資本主義」のような、自らの経済政策構想を示すキャッチフレーズを打ち出せていないのは、首相の経済政策への姿勢を象徴している。ほぼ岸田政権の経済政策を踏襲し、新たに踏み込んだのは「最低賃金1500円の実現時期前倒し」くらいだ。 地方創生では予算倍増を掲げるが、1000億円から2000億円に積み増して、果たしてどれだけのことができるか。 安保・外交政策では、自民党総裁選では繰り返し訴えていた「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」創設および日米地位協定の改定を封印した。地位協定については問題提起としてはあるだろうが、いずれも従来の政府方針とはかなりかけ離れており、短期的な実現可能性に乏しいものであるだけに、この軌道修正は理解できる。演説では、岸田政権を継承する内容に終始し、新味があったのは自衛官の処遇改善のための関係閣僚会議の設置くらいだった。 その後、石破首相は派閥裏金事件に関係した国会議員の一部を今回の衆院選で非公認とし、政治資金収支報告書に不記載のあった議員は比例代表との重複立候補を認めない方針を打ち出した。新政権の政策ではなく、「政治とカネ」を巡る問題に対する反省と制度改革に向けた姿勢こそが、衆院選の最大の争点となることは必至で、首相はこれに対応した。 最終的には石破自民党の今回の公認問題への対処を、国民がどう判断するかが問題となる。結局、12人を非公認とし、比例単独候補者となる可能性があった3人の議員の記載を実質的に見送った。全員を公認した場合に比べ、首相は好ましい判断をした。一方で、政治資金不記載問題を抱える議員は相当数が公認されることになった。今回の衆院選の結果によって、新政権の勢いが決まる。