五輪の熾烈なメダル争いと地元選手の活躍に熱狂するフランス国民。解説の立場で気が付いたこと【佐藤信人アイズ】
ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は現地で解説を担当したパリ五輪のゴルフ競技について語ってもらった。 パリ五輪金、リディア・コーのスウィング【連続写真】
パリ五輪で男子ゴルフ競技の解説を担当させていただきました。言うまでもなくオリンピックは世界最大のスポーツイベント。ボクは解説という立場でしたが、世界中から選び抜かれた一流アスリートと、同じフィールドで同じ空気を吸っている喜びは、言葉ではなかなか言い表せません。選手であればなおさらでしょう。 まずはこうした機会を与えてくださった多くの関係者の皆様に、この場をお借りして感謝を申し上げます。 さてゴルフ競技は、松山(英樹)くんの銅メダル、世界ランク1位のスコッティ・シェフラーの強さを見せつけた逆転金メダル、ジョン・ラーム、ザンダー・シャウフェレの最終日最終組のまさかの失速。 さらに言えば最終日のバック9、10番から14番の5連続バーディで優勝戦線に食い込みながらも15番で池ポチャしたローリー・マキロイ。彼らしい負け方といえばそれまでですが、大会を盛り上げた一人であることは間違いありません。 さらに、普段あまり見ない女子ゴルフを勉強させてもらうことにもつながりました。メダルにこそ届きませんでしたが、最後まで諦めない山下美夢有選手のプレー、表彰台でのリディア・コー選手の涙にも感動しました。 また、他競技の金メダル、世界記録樹立の瞬間にも立ち会うことができました。フランスにおけるゴルフは、けして人気スポーツではありません。火曜、水曜日とコース入りしましたが、練習ラウンドはまったくの無観客。コースには大きなスタンドが用意されていましたが、「本当に埋まるのか?」が、偽らざるボクの感想でした。メジャーなどでは練ランでも観客はいますし……。 無観客の東京五輪に出場した選手、関係者も同じ思いだったようです。ところが蓋を開けてみると初日、国旗を振り、選手たちの名前を連呼するファンが続々と集まります。 その熱狂こそが大会を盛り上げた最大の要因であることは間違いありません。おそらく一部の人気選手を除き、自分の名前が連呼される熱狂を味わったゴルファーはあまりいなかったはずです。地元フランスのビクトル・ペレスを後押ししたのも紛れもなくギャラリーでした。 ペレスに関しては、最終日序盤に伸ばしてくれると会場が大いに盛り上がるので、最初は頑張ったものの世界の実力者相手にエネルギー切れで最後は失速……といった展開を勝手にイメージしていました。 ラームやザンダー、松山くんなどメジャーチャンピオンが相手ですから、失礼ながら希望的観測もありました。ところがバック9に入るとゾーンに入り、14番のイーグルを挟んで12番から15番までに5つスコアを伸ばし、終わってみれば1イーグル、6バーディ、ノーボギーの63を叩き出し、メダルに1打足りずの4位に食い込みました。 多くの選手が「4位も60位も同じ」と口をそろえましたが、ペレスの4位は今後フランスのゴルフ発展を予感させる4位になるでしょう。あのギャラリーの熱量、ペレスのゾーンに入ったゴルフは、多くのフランスの子どもたちがゴルフに触れ、ゴルフを始めるきっかけになるはずです。 ※週刊ゴルフダイジェスト2024年9月3日号「さとうの目」より
週刊ゴルフダイジェスト