去年と同じでなぜ悪い?…経済の「ゼロ成長」が問題となるワケ【経済評論家が解説】
「失業率が下がる成長率」は、各国の経済ごとに違うので…
成長率が高いときは、物がよく売れるので企業が生産を増やし、そのために人を雇います。それにより失業率が下がります。反対に成長率が低いときは失業率が上がります。 しかし、経済によって「成長率が何%を超えると失業率が下がるのか」という境界線が異なります。高度成長期は、労働者1人当たりの生産量が急激に伸びていましたし、現役世代労働者の数も増えていましたから、5%程度の成長率では失業者が増えてしまいました。おそらく、8%程度の成長率が境界線だったのでしょう。その境界線のことを「潜在成長率」と呼びます。 しかし、最近では「アベノミクス」によって簡単に労働力不足となってしまいました。成長率は決して高くなかったのですが…。理由は、潜在成長率が大きく低下しているからで、現在では0.5%程度ではないでしょうか。
高度成長期より、いまのほうが潜在成長率が低いワケ
高度成長期よりもいまのほうが潜在成長率が低い理由は多数あります。すぐに思い当たるのが人口増加率、とりわけ現役世代人口の増加率が当時はプラス、いまはマイナスだ、ということです。現役世代人口が増えれば潜在成長率が高くなるのは当然ですから。 スタート地点の低さが当時の潜在成長率を引き上げていた面も大きいでしょう。トラクター等がない国にトラクター等がやってくれば、労働生産性は大幅に上昇しますが、すでにトラクター等がある国でそれを最新式のものに買い替えたところで、労働生産性はそれほど上がらないからです。 高齢化によって、技術進歩が難しい仕事が増えた、という面もありそうです。若者が自動車を買っていた時代には、自動車工場が機械化されていくにつれて自動車産業の労働生産性が高まっていきましたが、いまは高齢者が介護士に仕事を頼んでも、介護士の仕事は機械化や効率化が難しいので、介護産業の労働生産性は上がりにくいのです。 しかし、最も重要な要因は技術力がキャッチアップを終えたことにあると筆者は考えています。高度成長期には、米国にあるものを真似て作ればよかったのですが、日本経済が成長するにつれて、技術水準が米国に並び、「これ以上の技術進歩には、新しい発明発見が必要だ」という状況になり、使っている技術の進歩による労働生産性の向上が容易ではなくなっているのです。