日本テニス界をけん引した伊藤竜馬が18年にわたる現役生活に幕!「お客さんの声援が無ければ勝てなかった」<SMASH>
18年のプロキャリアを振り返り、最も嬉しかった出来事として、「2012年のロンドンオリンピック出場」を挙げる。自分一人の功績ではなく、「錦織(圭)くんや添田(豪)くんと一緒に行けたというのが、すごく大きい」と言うあたりが、仲間思いの彼らしい。 4歳年上の添田の背を追い、一歳年少の錦織の活躍に刺激を受け、共に迎えた日本男子テニスの夜明け。この年、伊藤の世界ランキングは、キャリア最高の60位を記録した。海外留学等の経験はなく、高校も部活動出身。“純国産”と呼ばれたその足跡の中で、彼を特別たらしめたものは何かと問われると、「出会い」だと即答した。 「やっぱり、人との出会い……コーチやスタッフとの出会いというのは、選手にはすごく大事だと思う。その上で、しっかり自分に投資すること。その大切さを理解した上で、自分でしっかり決断する能力」 紆余曲折や試行錯誤もあったキャリアの中で、学んだそれらの財産を、「これからの選手たちに伝えたい」とも言った。 豪快に見えながらも、その実、繊細で篤実な人柄は、年齢性別問わず、仲間の選手たちからも広く慕われる。後輩選手たちからは、早くも「コーチとして見て欲しい」と声も掛かっている。本人はツアーコーチに興味があるも、ジュニア育成にも尽力していきたいと言った。 最後の試合終了後には、本来は勝者恒例のサインボール打ち込みを、惜別の挨拶代わりに行った。ファンたちが両手を振り、「ちょうだい!」と声を上げるなか、終盤の一球は、スタンドの誰もいない所へと飛んでいく。 「どこに打ってるんや。まったく、あいつらしいなぁ」 打球の行方を見守る父親が、顔をクシャっとしかめて笑った。 最後の会見の、最後の質問。「伊藤竜馬とは、どんな選手だったか?」と問われ、次のように答えた。 「20代は粗削りで、勢いもありつつ、乱暴な部分もあった。20後半から30代になって、ベテランの味をゲットでき、より冷静さも得られた。 今のメンタル状態が20代の時にあれば、もっと行けたんじゃないかというのもあります。でもテニスや試合への取り組み方は、非常に高かったかなと思います。 あとはやっぱり、攻撃的なフォアハンドが、自分の中で一番の魅力だった。そこを、今大会でも見せられたのは、非常に大きかったかな」 キャリアのラストショットは、痛むヒザを引きずりながら放った渾身のフォアが、ネットに掛かる。 恐らくは誰もが納得する、伊藤竜馬らしい最後だった。 取材・文●内田暁