DIC川村記念美術館、休館前最後の展覧会。「西川勝人 静寂の響き」レポート
白で光を表し、濃紺で闇を表す
続くGallery202では、本展開催のきっかけとなった同館コレクションの「無題」(1987)をはじめ、作家の初期彫刻が並ぶ。「無題」は、繊細でありながら厳かな存在感を放つ細長い彫刻作品。白を基調としながらも側面はグレーで彩られているなど、少ない面積の中に微細なグラデーションが含まれている。会場左手の壁に展示されるドローイング群も同様に白のグラデーションや、繊細な色彩のコントラストを楽しめる。 西川は活動初期のある時期、光を表す白、闇を表す濃紺という対比を作品に多用したが、2000年代の作品《静寂の響き》(2005~6)でもそれを見ることができる。本作は光と闇がテーマで、色そのものは主題ではない。作家は色を光の波長としてとらえており、色そのものに興味はない(*2)のだという。
迷路のようなメイン空間
今回の展示でもっとも広いメイン空間のGallery203は、驚きの空間になっている。迷路のような構成に加え、天井からは柔らかい自然光が差し込み、太陽や雲の影響で時々薄暗くなったり、明るくなったりと、作品を様々に照らし出す。これまでの空間を知っている人ならなお、その構成に意表を突かれるはずだ。 迷路を形作る塀(高さ1m、奥行き50cm)はそれ自体が作品《ラビリンス断片》(2024)なのだという。ひとつの大きな正方形を9の区画に等分するような形状になっており、「同じ空間にいながらその全体のなかでめくるめくような体験」(*3)をしてほしいという作家の思いが反映されている。展示室中央に置かれた、胡蝶蘭、バラ、ユリなど7種類の花弁からなる《秋》(2024-25)が放つ、空間に充満する香りもドラマチックだ。 塀にそって各作品を鑑賞すると、それぞれの作品が古代建築の構造物のような、あるいは遠い未来の遺構のようにも見え、時空を行き来するような不思議な感覚を得、その感覚の余韻は美術館の外へ出た後も続いた。日常を一時忘れるエアポケットのよう鑑賞体験は、同館の立地や静かで豊かな環境によってさらに強固なものになっている。ぜひ休館前に一度訪れてほしい。 なお、美術館の外の池の水面にも作品が展示されているため、こちらも見逃さずに見てほしい。 *1──美術館ウェブサイトより https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/ *2、3──会場ハンドアウトの解説より
Chiaki Noji