ネアンデルタール人はイヌの価値気づかず絶滅?イヌ家畜化はいつ始まったか
ペット化はどのようにはじまったのか?
どうしてイエイヌの出現時期とペット化の起源の具体的な年代が重要なのか? その理由の一つに、イエイヌと人類が共同生活をはじめた原因 ── いわゆる「ペット化・家畜化のメカニズム」 ── を探るためのきっかけを与えてくれる可能性があることに他ならない。(一連のメカニズムにおける主要な仮説を以前の記事でも少し取り上げてみた。) 「年代の重要性」とはどういうことか。上の図をごらんになっていただきたい。 人類の技術や文化、文明の進化史とイエイヌの起源を照らし合わせてみると、いろいろ興味深い点が浮かび上がってくる。まず、イエイヌの登場はペット化・家畜化の直接の証拠が見つかるより、少し(またはかなり)古い時代に起こったのは間違いないようだ。そのためイエイヌは出現してからしばらくの間、「野生または半野生状態」で暮らしていたという仮説が立てられるだろう。 そしてペット化・家畜化が実際に行われたのは、最近の研究によると一度または二度だけ起きた可能性が高いとみられる。その詳細なプロセスや具体的な時期はまだかなり議論の余地があるようだ。狩猟採集生活を送っていた真っ最中か、または農耕牧畜のライフスタイルへ移行する時期だった可能性がある。(この件はまた機をみて改めて紹介してみたい。) イヌは狩猟目的に食料を確保するために、初期の人類によって飼われはじめたのだろうか? 特に氷河期時代は食糧確保に苦労し、ネアンデルタール人や他のホモ属の種は滅んだと考えられている。どうしてわれわれの直系の祖先であるホモ・サピエンスの集団だけが、過酷な氷河期の間、無事生き延びることができたのだろうか? この過酷な寒冷期に狩猟用の槍やナイフ用の石器などが使われだしたようだ。こうした当時としての最新テクノロジーの開発も、食糧難の下、必要に迫られてのことだったのだろう。必要は発明の母とはよくいったものだ。 そして、その当時、イヌの果たした役割も「かなり大きかった」と考えられないだろうか? もしかするとイヌなしで初期の人類は「過酷な氷河期を生き延びることが出来なかった」のかもしれない。イヌの存在や価値に気づかなかったネアンデルタール人やフローレンス人などは、「運悪く絶滅に瀕(ひん)した」のかもしれない。 すべては状況証拠にもとづく単なる仮説にすぎないかもしれない。単なる偶然で両者にはとくに関連性もなかったかもしれない。妄想や壮言のようだと言われる方もいるかもしれない。 しかし、一古生物学者・進化学者として、化石にもとづく研究の醍醐味の一つに、太古の昔に起きた「物語を構築してみる」という作業がある。古生物学は単に歯のかけらや骨格の断片の細かなデータをもとに、新しい種など判定・記載するだけではない。(どちらも同じように大切なゴールだ。) そして、一愛犬家の観点から最後にもう一言。もしイヌ達が初期人類の進化上、多大な貢献を果たしてきたとしたら。もし文字どおり「人類の恩人」としての役割を果たしてきたとしたら。是非お宅のワンちゃんたちを、早朝の散歩に連れて行くいい動機になるかもしれない。おやつをもう少し余分に分けてあげても(全然)悪くない。もし余裕のある方・興味のある方がいれば、ペットとしてイヌを迎え入れてあげてはいかがだろうか。 新年早々、戌年を迎え、このようなストーリーが初夢として私の胸によぎった。 さて、この2018年において、大小さまざまな、どのような新発見、そして新しい研究を耳にするのか。今から非常に楽しみだ。