ネアンデルタール人はイヌの価値気づかず絶滅?イヌ家畜化はいつ始まったか
考古学データによる「ペット化起源」の年代
遺伝子におけるデータは、サンプルが抽出された個体が人間になついていたか、それとも野生に生きていたのか。何万年も前に起きたこうした直接行動に関する情報を我々に与えてくれない。 オオカミと枝分かれしたばかりの最初期のイエイヌたちが、初期の人類と生活をすぐに「共にしていたかどうか?」。それともしばらくはオオカミの群れと同じように、「ヒトの住む場所を避けて暮らしていたのか?」。 こうした問いに答えるためには、遺伝子データに頼るわけにはいかない。考古学上のデータが鍵を握ることになる。例えば、太古の人類の居住地(=遺跡地)から見つかるイエイヌの骨及び化石。そして下に紹介するようにイヌとヒトの骨格が一緒に埋葬されているケースも、いくつか知られている。こうした状況証拠は、ペット化及び家畜化の起源を探究する際、非常に重要になってくる。 考古学上の記録における年代の推定値に以下のものがある。 36,000―14,708年前(Germonpre 2009):ベルギーやウクライナ、ロシアなどの遺跡地から、複数のイエイヌと考えられる骨格や骨が発見されてきた。歯や骨の標本を、炭素同位体という化学的な手法を用いて、その動物個体が生きていた年代を測定することができる。一番古い考古学上のイヌ・ペット化の証拠の一つは、約3万6千年前のものだ。より新しい時代になるほど、よりたくさんの証拠が見つかる傾向がある。 33,500年前(Ovodon 2006):先に紹介したシベリアのアルタイ・ドッグの頭骨の標本はこの年代のものと推定されている。オオカミの頭骨の形態と比較したところ、このアルタイ・ドッグは最も初期のイエイヌの一つと研究者は結論づけた。ちなみにこの標本のDNAデータを調べたFreedman等(2017)の研究は、イエイヌの直接の先祖が現生のハイイロオオカミではなく、小型の「絶滅したオオカミの集団」だったという、興味深い仮説を導いている。このアルタイ・ドッグに関しては他にもいくつか興味深い研究が行われている。(The Siberian Timnesに頭骨の写真がある:) 16,300年前(Pang等2009):揚子江近くで発見されたイヌの骨格にもとづく。イエイヌは単一のオオカミの集団から進化した「単一起源説」を支持している。 13,000年前(Turnbull 1974):イラクで発見されたアゴの骨にもとづく。部分骨格や骨の断片だけの標本は、イヌとオオカミの識別が難しいケースがあるが、歯を残したアゴの骨がはっきりイヌと断定できるケースもある。 12,450年前(Jing等2010):中国の標本による。ヨーロッパや中東だけでなく、東アジアからもたくさんの古いイヌの記録が知られている。この事実が伝統的なヨーロッパや中東のイヌ起源説に対抗する、「東アジア説」を生み出すことになった。 12,550年前(Thalmann等2005):ドイツからのサンプルをもとにヨーロッパがイエイヌの起源とする説を提唱している。 12,000年前(Davis等1978):1980年代にイスラエルのアイン・マラッハで発見された、有名な2匹の子イヌと中年の女性の骨格にもとづく(イメージはこちら参照)。骨格が埋もれていた状況から、研究者はイヌが飼い主とともに丁寧に埋葬されていたと結論付けた。そのためこの論文の発表以来、「ペット化された最古のイヌの記録」として、長くあちこちの文献などで目にする。 7,425年前(Losey等2011):初期新石器時代の中央アジア ── ロシアにある遺跡現場において発見された。イヌと考えられる骨格が人間のものと一緒に埋葬された。 以上、古い年代のものから順にいくつか選んで並べてみた。中期石器時代(約10万~3.5万年前)になると、人類は死者を埋葬する風習をはじめたことが知られている。その一環として「おそらく」イヌも一緒に飼い主と埋葬することが行われたようだ。イヌの骨が遺跡地(=当時の居住地や村落)から見つかれば、食用や愛玩用などの可能性があるものの、ヒトと一緒に生活をしていたと考えておいていいだろう。 一連の考古学上のデータからも、イヌの具体的なペット化が行われた年代に、まだかなり開きがある。特に古い時代になるほど、証拠となるような記録が少ないようだ。しかし1万年くらい前(=後期石器時代末から中期石器時代だ)になると、いろいろな場所で見つかっているようだ。ヨーロッパ北部や、シベリアやロシア北部などの特に寒冷地において、イヌはかなり重宝されていた印象を私は受ける。