あたりまえにしている「酸素呼吸」…じつは、地球に「海」がなければ「あり得なかった」
地球という惑星の進化は、水のはたらきを抜きにしては語ることができません。 じつは、水は地球の表層だけではなく、プレートテクトニクスと共に、地球の内部に取り込まれ、地質学的なスケールで大循環しています。しかも、今後6億年で、海の水はすべて地球内部に吸収され、海は消失してしまうという、驚きの最新研究もあります。 【画像】生命活動と切っても切り離せない…二酸化炭素の意外に重要な役割 「水」を地球規模のスケールで解説した『水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる』から、興味深いトピックをご紹介していくシリーズ。地球の歴史を振り返りながら、「水」が地球の環境のなかで、どのような働きをしているのかを見ていきます。 今回は、原始地球での生命誕生から、酸素呼吸をする真核生物の登場までの流れを、海との関わりに重点を置いて振りかえります。 *本記事は、『水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
海底の地層からみつかった最古の生命
地球史のなかで、顕生代以降は多くの化石がみつかりますが、それ以前の生命の痕跡は時代をさかのぼればさかのぼるほど少なくなっていきます。地球上で最古の生命の痕跡とされるのは、グリーンランドのイスアにある39億5000万年前の地層にみつかった炭質物になります。 この炭質物の同位体を測ると、軽い炭素が多く含まれていました。炭素には原子量が12である12C以外にも、中性子の数が異なる同位体がいくつかあります。生物起源の炭素は軽い同位体を選択的に取るため、イスアでみつかった軽い炭素は生物由来の可能性が高いのです。この炭質物がみつかった地層は、海底でできた構造を示すことから、その頃の海では生命活動がすでにあったと考えられています。 少し時代が進んだオーストラリアのノースポールにある35億年前の地層には、生物らしいフィラメント状の炭質物がみつかっています(図「ノースポールでみつかったフィラメント状炭質物」)。この炭質物も明らかに軽い炭素の同位体を示すことから、やはり生物由来であるとされています。 そして、その形状は現世にもいるシアノバクテリアに似ていることから、浅い海で、しかも太陽光による光合成をする生物が、この時代にすでに出現していたと報告されたのです。 ところが、東京工業大学のグループが中心となってこの地域を詳しく調査してみると、この微化石を含む地層は浅い海で堆積したものでなく、深海で堆積した地層であることがわかりました。ノースポールの地層は、中央海嶺の拡大軸周辺でできたもので、熱水の通り道、すなわち熱水噴出孔の周辺に微化石がたくさん確認されました。 このことは、地球初期の生命の活動場は熱水噴出孔の周りで、水と岩石の化学反応からエネルギーを獲得する化学合成生物であったことを示唆しています。 この深海説を唱えた東工大グループは、私が在籍した研究室になります。研究室の教授である丸山茂徳は、膨大な量の論文精査から斬新なアイデアを展開するカリスマ的存在で、当時の研究室には血気盛んな若手研究者や学生が多く集まっていました。そんな人たちとの議論は尽きることがなかったのですが、お酒が入ると大変で、酔いが回ると修羅場となることもしばしばありました。今だったら大変な騒ぎになっていたと思います。 話を戻して、初期地球での表層環境と生物の関わりを整理すると、海は45億年ほど前にでき、海底では活発な熱水活動が起きていました。熱水噴出孔の周りでは、水と岩石の反応による化学エネルギーがたくさん生産されていました。そのようなエネルギーを利用する微生物が40億年前頃には誕生し、光の届かない深海で活動を始めました。 40億年前には大陸ができ始めますが、生物は宇宙線などの影響で危険な浅い海や陸地へ移動することなく、深海の熱水噴出孔の周りで進化を続けていたのでしょう。 しかし、27億年前ごろになると、ダイナモ運動によって地球磁場ができ、太陽風や宇宙線など生命にとって有害な物質が遮られることで、生物は大きな進化を遂げることになります。