あたりまえにしている「酸素呼吸」…じつは、地球に「海」がなければ「あり得なかった」
海の中で発生した光合成をする生物
フィラメント状の微化石がみつかったノースポールより200kmほど南にいったハマスリーには、27億年前の地層が広がり、ここではシアノバクテリアがつくったストロマトライトがみつかっています。 ノースポールの地層は深海で堆積したため、光合成を行うシアノバクテリア由来ではなかったのに対し、ハマスリーの地層は浅い海で堆積した構造を残していました。この時代に生物は浅い海まで移動し、酸素を発生する光合成を行う原核生物にまで進化していたのです(図「地球史の年表」)。 シアノバクテリアは葉緑体の祖先とされ、その後の生物の進化や、酸素を発生することで地球表層環境にも大きな影響をあたえました。 光合成は水と二酸化炭素から有機物をつくる反応です。その際に排出物として酸素ができます。有機物を分解する酸素は、それまで生物にとって有害なものでしたが、地球表層に満ちあふれる水と二酸化炭素、そして太陽の光エネルギーを利用するため、生物は酸素と共存する道を選んだのです。 しかし、太陽から届くのは光だけでなく、生物にとって危険な高エネルギー物質も降り注いでいたのに、どうやって生物は浅い海まで進出することができたのでしょうか。そこには、生物活動とは一見関係のないようにみえる地球内部の変動が関わっています。
新たな代謝機構「酸素呼吸」を手に入れた真核生物
地球の中心にある核は、地球内部の温度が高かった頃は、すべて液体の状態でした。固体の内核ができはじめたのは、ちょうど生物が浅い海へ進出しはじめた27億年前頃といわれています。内核ができると液体である外核の対流が活発化し、金属の対流が生み出す電流によって地球磁場が発生しました。 そうすると、地球はある意味一つの大きな磁石となって、磁気圏というバリアで地球を覆いました。地表には太陽風や宇宙線などが届かなくなり、生物が浅海へと移動することができたのです。なお、オーロラは地球磁気圏の電子が電離層に降り込むことによって生じる現象で、主に極域でしかみられないのはそこに磁力線が集中しているためです。 光合成生物によって地球表層に酸素が供給されると、海水に溶け込んでいた還元鉄が酸化され、大量の鉄鉱物が世界中の海に堆積しました。25億年前から20億年前の地層には、数百mの厚みをもった縞状鉄鉱層(BIF:Banded Iron Formation)があり、現在私たちが利用している鉄資源の多くはこれらの地層から採掘したものです。 海水中の鉄が少なくなってからも酸素は供給され続け、海のなかの酸素濃度は高くなっていきました。そうすると、生物はこれまで有害であった酸素を逆に利用するようになったのです。酸素呼吸を行う真核生物の登場です。 酸素呼吸は、生物のなかにある有機物を酸化分解することによってエネルギーを得るシステムで、それまで生命が行ってきたなかで最も効率のいいメカニズムでした。そのような新たな代謝機構を獲得した生物は、その後に爆発的な進化を遂げることになります。 ◇ ◇ ◇ 次回は、水の惑星地球を、ちょっと違う視点から考えてみます。 水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる
片山 郁夫(広島大学大学院 先進理工系科学教授)