屋外広告を服に再生 「Paper Parade」とリガレッタのサステナビリティへの挑戦
ー「枯れた技術の水平思考」は任天堂でゲーム&ウォッチやゲームボーイの開発に携わった横井軍平さんの言葉で、すでに存在する技術を組み合わせて新たな価値を創出するクリエイティブ思考ですね。
そうですね。私の発想は「広告にかかる知的財産権を認知できないようにすることで、ある程度自由に再利用できるのではないか」というものでした。そのために発見したのが「シークレット地紋」という技術でした。これは金融機関が利用者に郵便物を送る際に、個人情報をマスクするために使われる細かい模様で、日常生活でもよく目にするものです。
いままでクリエイティブに活用されたことはほとんどありませんが、デザインとしても案外面白い。これを広告の上に印刷すれば「知的財産権をクリアする」ために流用できるのではないかと考えました。実際に権利確認のステップを大幅に減らすことができたのです。 ーサステナビリティを実現するために新たなクリエイティブが生まれたと。
サステナビリティをルールや制約として捉えるのではなく「お題」をクリアするように思考を転換させた、ということですね。限られた条件の中でかっこいいものを創ることは広告デザイナーの本領です。問題と真正面から衝突するのではなく、新しい視点を見つけてクレバーに解決していきたい。
試行錯誤を繰り返して生地が完成すると大きな変化が起きました。いままで手続きの難しさからネガティブな反応だった企業のほうも、積極的に社内で屋外広告のアップサイクルを検討するようになったのです。
「街」がブランドを持つということ
ー循環の仕組みができたことで行動が変わったと。 その通りです。関係者たちも広告を使い捨てたくはないし、PRというビジネスそのものがサステナビリティを阻害しかねない現状を変えたいと思っています。 その取り組みの代表例が大手町・丸の内・有楽町エリアの屋外フラッグ広告などを管理している大丸有マネジメント協会「リガーレ」と立ち上げたブランド「リガレッタ」です。エリアマネジメント広告として掲出されたバナーフラッグを「シークレット地紋」でマスクすることで素材化し、街から生まれ育っていくブランドをつくることができました。 広告は使い捨ての資材から「街の物語が沁みこんだ素材」として再生し、ブランドのアイテムを身に着けることで購入した人もソーシャルグッドな取り組みに参加できます。