世界魅了する台湾初のウイスキー「カバラン」 寒冷地で製造の常識覆した“逆転の発想”
台湾初のシングルモルトウイスキー「カバラン」が今年で発売15周年を迎えた。寒冷な気候が不可欠とされてきたウイスキー造りの常識を覆し、新風を吹き込んだ亜熱帯生まれのウイスキーは、フルーティーかつ濃厚な味わいで世界を魅了する。北東部の宜蘭県にある蒸留所を訪れ、豊かな風味の秘密を探った。 (宜蘭県で後藤希) 【写真】ワインだるで熟成したウイスキー「カバラン」 宜蘭バスターミナルから車で約20分。三方を山に囲まれた蘭陽平野の田園地帯にある工場は、ウイスキーの甘い香りが屋外まで漂っていた。 第1工場の見学ツアーに参加すると、コースの入り口にずらりとたるが並んでいた。2008年製造の原酒だという。「時がたつにつれて、たるの隙間から原酒がにじんでくる。触って香りをかいでみてください」。ガイドに促され、たるの黒くにじんだ部分を触った指を鼻に近づけると、シナモンのような甘くスパイシーな香りがした。 原料は台湾五大山脈の雪山山脈や中央山脈がもたらす豊富な天然水と、欧州から輸入する麦芽。蒸留器は第1工場と第2工場に5組ずつあり、計10組で年間1千万本を生産する。「生産量は世界9位ともいわれています」とガイドも誇らしげだ。 香りや味わいは酵母の種類や発酵条件で変わるが、熟成に使うたるの役割も大きい。ここではワインやバーボン、シェリー酒を貯蔵していたたるを使用。内部を削って焼き入れし、コクを深める製法を編み出した。「数多くのたるを使い分け、異なる香りや味わいを生み出す」という。 ツアーの最終地点、貯蔵庫を見下ろす場所に到着すると、ガラス越しにもかかわらず濃厚な甘い香りに満ちていた。参加者から思わず「良い香り!」と歓声が上がる。見渡す限りの空間にたるが整然と並ぶ様は圧巻だ。熟成が進みすぎないよう、細心の注意を払って管理しているという。 見学後、ワインだるで熟成させたウイスキーを試飲した。口に含むと、ブドウやキャラメルを思わせる香りが鼻に抜け、爽やかな甘みが舌に残った。 ‡ ‡ 世界の五大ウイスキー産地は英スコットランド、アイルランド、米国、カナダ、日本とされる。台湾の挑戦は、ウイスキー愛好家が抱いた「100年以上続く海外蒸留所への憧れ」から始まった。 台湾政府は02年の世界貿易機関(WTO)加盟を機に、民間の酒造りを解禁。飲料大手「金車グループ」(台北市)の創業者で、ウイスキーを愛する李添財董事長(会長に相当)が長年の夢を実現すべく大きな一歩を踏み出した。 最大の難関は高温多湿対策だった。李氏はスコットランドからウイスキー研究の権威を招き、台湾の気候や地理的条件を丹念に調査した。ウイスキー製造に向かないとされた亜熱帯特有の気候を逆手に取り、熟成が早く進む点に着目。寒冷地で十数年かかる熟成期間を数年に短縮することに成功し、台湾を象徴する香りも手に入れた。同社は「亜熱帯気候の影響で、発酵中に香りのもとになる化合物がより多く生成され、たるの呼吸も活性化し、熱帯フルーツのような香りが生み出される」と解説する。 05年に蒸留所を建設し、翌年から生産開始。08年に念願の発売にこぎ着けた。商品名は先住民族の名前であり、宜蘭の旧名でもある「カバラン」に決めた。 10年に本場スコットランドのウイスキー利き酒大会で1位を獲得。15、16年には権威あるワールド・ウイスキー・アワードで世界一に連続で選出され、知名度が急上昇した。 同社によると、台湾は1人当たりのウイスキー消費量が世界で最も多い地域の一つで、「特に30~40代男性の愛飲家が多く、高級なシングルモルトウイスキーの需要は高い」という。近年はバー文化の定着やカクテルの普及で、20代にも裾野が広がっている。 海外市場も重視し、現在は50カ国以上に輸出しており、日本と韓国が最大の取引先だ。需要の高まりを受けて、4月にはたる10万個分のウイスキーを熟成できる第3貯蔵庫が完成した。同社の広報担当者は「100年続く工場を目指して努力を続け、台湾ウイスキーを世界に広めていきたい」と話している。