ビットコイン規制はどう変わる──動き出した金融庁、ザワつく金融界と暗号資産業界
1年弱で8兆円が流れ込んだ米国のビットコインETF
PWCが今年3月にまとめた調査報告書を見てみると、世界のETFの運用資産残高(AUM=Assets Under Management)の合計は、2019~2023年の5年間で年率19%のペースで増加し、23年末時点で11.5兆ドル(約1649兆円)。PWCが行ったアンケート調査では、この市場規模は2028年6月までに19.2兆ドル(約2754兆円)に達する可能性があるとしている。 一方、米国で今年上場されたビットコインETFは12本。12本のAUMの合計は現時点で約560億ドルで、日本円に換算すると約8.2兆円。運用資産残高で最大なのはブラックロックが運営している「iShares Bitcoin Trust」で、その規模は約220億ドル。世界のETF市場全体の規模と比較すると微々たるものだが、1月に上場されてから9カ月で8兆円を超える資金が流れ込んだ。 ビットコインETFを購入する投資家は、ビットコインを暗号資産専用のウォレットなどで管理する必要はなく、ビットコインの価格に連動するファンドのシェア(口)を買ったり、売ったりすることができる。 ブラックロックはファンドを構成するビットコイン(現物)の調達と管理の責任を負うが、この部分の業務は米コインベース(Coinbase)に委託している。コインベースは暗号資産の取引サービスを展開する一方で、ブロックチェーンの開発事業も行う米国の上場企業。 日本に話を戻そう。 従来であれば、野村アセットマネジメントや三菱UFJアセットマネジメントのような大手資産運用会社が、先頭を切って新たなETFの組成に乗り出すはずだが、ビットコインETFを巡っては大きな2つの壁がある。
金融界が直面する日本の2つの壁
1つ目は、「投信法」に関係するもの。一般に投資信託を組成するときにその効力を発揮する法律のことで、正式には「投資信託及び投資法人に関する法律」という。 現在の投信法では、組成する投資信託(ファンド)の資金を投資できる資産が特定されている。その「特定資産」には、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)は含まれてない。特定資産にビットコインを組み入れるには、この制度を変える必要がある。 これに対して、金融庁長官の井藤英樹氏はどう説明しているのか。 井藤長官は8月、ブルームバーグの取材で、国内でも承認するかどうかは「慎重に検討する必要がある」とした上で、投資信託は国民の長期的・安定的な資産形成を目的につくられた制度であり、暗号資産はその制度に沿うかというと「必ずしもそうではないという見方もまだ多いのではないか」と述べている。 鈴木俊一財務大臣も8月に別の会見でこの件に触れ、こうコメントしている。 ETFを組成するには、投信法に基づく投資信託の方法を用いる必要があるが、「現行制度上では、ビットコイン等の暗号資産を主たる投資対象として、投資信託を組成することはできない……。制度を改正してビットコインなどの暗号資産を主たる投資対象として認めることについては、暗号資産がこうした趣旨に沿った資産であるか否かについて慎重に検討をする必要があるのではないか」。 過去5年間、米国の資産運用会社は幾度となくビットコインETFの上場申請を行い、これを米政府は却下してきた。日本の財務大臣と金融庁長官の歯切れの悪いコメントを聞く限り、日本の今の状況は数年前の米国を思い起こさせる。