「俺はTeams嫌い」「業務は全て最適化済み」DXを阻害する“超アナログ社員”を動かした発想の大転換
グローバルで大規模プラント建設を手掛ける東洋エンジニアリング。2017年のDX開始当初は社員の関心が薄く、説明会を開いたり、部署を回って改善を促したりと草の根的な活動が続いた。しかしこの活動は無駄ではなく、「DX=生き残り戦略」として経営陣に浸透。2019年にはDXを最優先経営課題として「DXoT(Digital Transformation of TOYO)推進部」を立ち上げ、ユニークな取り組みで成果を上げている。原動力となったのは、庶務や秘書として業務を支える一般職社員を中心とした「デジタルファーストチーム」だった。(ノンフィクションライター 酒井真弓) 【この記事の画像を見る】 ● とにかく関心を持ってほしかった ここに、「DXoT」のシールが貼られたバナナがある(写真)。2019年、DXoT推進部の前身チームが認知度を高めるために、社員食堂の前で配ったものを再現したものだ。 「とにかくDXに関心を持ってほしかった」。DXoT推進部の宮澤忠士さんは、そう振り返る。この頃、DXに対する社内の反応は極めて薄く、意見やアイデアを募っても暖簾に腕押し。説明会を開いても、興味を持って聞いてくれる社員は少なかったという。
宮澤さんがある部署を訪れると、ベテラン社員から「私の業務は全て最適化されていて改善の余地はない」と諭された。その社員の机には、A3用紙に印刷された大きなスケジュール表が。定規とマーカーで予定を確認する旧来の光景が広がっていた。 また、ある社員に「Teamsを使ってみてください」と声をかけると、「俺はTeams嫌いだから」と断られた。「場を盛り上げようと一生懸命アイデアを出すのですが、一人芝居になってしまって」と宮澤さん。それでも笑顔で耐え続けた。周囲から「鉄のメンタル」と評されるゆえんだ。 宮澤さんは、変革を進める上での課題に気付いた。一つは、当事者は自分の業務がどう変わるのかを想像しにくいということ。そして、DXは決してITが得意な人だけで進められるわけではないということだ。一番大切なのは、デジタル化が必要な当事者がそれを認識し、一緒に変えていくことだ。 ● 草の根DX、起爆剤となったのは、隣の席の一般職 変革の鍵は現場にあり――ここで、宮澤さんらは強力なキーパーソンたちの存在に気付いた。社内に約100人いる、いわゆる一般職だ。各部門をサポートする一般職は、業務を熟知している上に、部門長や現場の社員たちとの物理的心理的距離が近い。他部門の宮澤さんには「Teamsなんて」と言える社員も、いつも隣で助けてくれる一般職には言えない! こうして立ち上がった一般職を中心とした「デジタルファーストチーム」は、現場目線で課題を見出し、ツールの導入支援や業務効率化のための共通ルール策定などに動いている。前編ではDXoT推進部長の葛藤に焦点を当てたが、経営層やDXoT推進部長が掲げた戦略をボトムアップで具現化するのが、デジタルファーストチームのミッションだ。 実はDXが始まった当初、一般職の間には、これまで担ってきた事務作業が減ることで、自分たちの役割はどう変わってしまうのかという不安があったという。しかしフタを開けてみれば、部門の定型業務から解放された一般職たちは、むしろ全社に貢献する新たな役割を見出していった。 ● 「未来の働き方」アニメーションを作って心をつかむ 一般職の原田美香さんは、デジタルファーストチームの初期メンバーだ。DXoT推進部の立ち上げと同時にIT部門から異動。テレワークとフレックスを駆使して、育児をしながらフルタイムで働いている。