Number_iは音楽界を撹拌する「トリックスター」。紅白にデビュー作“GOAT”投下する特異性を解説
Number_iは「アーティスト」か「アイドル」か
こうした音楽性や活動形態について、メンバーが在籍していたKing & PrinceとNumber_iを比べて「アイドルからアーティストになったのか」とか、「Number_iはアイドルとアーティストのどちらなのか」というような反応もあって、ファンの間でも意見が分かれているようにみえる。それに関しては、「Number_iはアイドルとアーティストのどちらでもあり、どちらでもあるからこそ到達できる領域を切り拓いている」とみるのがしっくりくる。 そもそも、アイドルとアーティストを分ける必要があるのか? という問題もある。両者は作品のクオリティ云々ではなく、活動形態やステージングといった見せ方、プレゼンテーションの在り方の違いでしかない。だから、冒頭で述べた楽曲派アイドルのように音楽的に優れているものも多数あるし(実際、各ジャンルの音楽マニアを惹き込んだからこそ大きな潮流を生み出せた側面もあった)、アーティストやバンドがアイドル的な支持を得ている場合も少なくない(好きな対象がアーティスト枠なために、アイドル的にのめり込んでいることを自覚していない……というタイプのファン層も多い)。 また、自分で作詞作曲するのがアーティストだ、そうでないのはアーティストではないという考え方も根強いが、ジャスティン・ティンバーレイク(NSYNC)やハリー・スタイルズ(One Direction)、G-DRAGON(BIG BANG)やRM(BTS)など、アイドルとして活動するうちに制作にも積極参加するようになり、アーティストとしての評価を確立していく人も近年は目立って増えてきた。こうなると、アイドルとアーティストという括りの境目は曖昧になってくる。Number_iはそうした流れに連なるグループでもあるのだろう。 このような、アイドル的な立ち位置からアーティスト的な活動を増やしていったタイプの人に共通する特徴として、コアな表現をより広い層に届けることができるというものがある。 例えば堂本剛は、Kinki Kidsとしてアイドル活動を続けつつ、.ENDRECHERI.名義で世界屈指のファンクバンドを運営し、ジョージ・クリントンとの共演からP-FUNKの一員に迎え入れられてもいる。アイドル活動で培った圧倒的な華はアーティストとしての表現力を倍加しているし、ライブの最後で毎回20分超のジャムセッションを行う(事前取り決めなし、ファンクのグルーヴを保ちながら全メンバーがソロをとる)活動は、ファンの音楽リテラシーを高めるエデュテイメントとしても優れている。 そうした在り方について音楽プロデューサーSWING-Oが述べた以下の発言は、堂本に限らず多くのアイドル&アーティストに当てはまるものだろう。 「ヒップホップであれなんであれ、どのシーンの人たちでも結局ヒット曲を作らなきゃいけないっていう時に、どうしてもJ-POP的な要素を求められてしまうじゃないですか。どんなにコアなものを持っていても、マスに吸収されそうになっていく図式って、どんなジャンルでもあると思うんだけど。最初からマスなところにいる人、タレントとしての存在感がうまく作り上げられた人は、あとはどこへ行っても、むしろ行くところがコアであればあるほどよかったりする。(中略)やっぱりアイドルというかポップスターこそ、コアを求めてるんだなって思うんですよ」 Number_iの活動は、このような在り方をそのまま体現するものだ。“GOAT”のような楽曲を『紅白歌合戦』に出せることも、『No.Ⅰ』のような特異な構造のアルバムを大ヒット(※)させてしまうことも。そして、そこに先述したY2Kリバイバルとの対峙を絡めて考えるなら、世界的には飽和し落ち着き気味になってきた感もあるそうした潮流を、それがまだ広まりきっていない日本で個性的なかたちで紹介することにより、これまでの流れを引き継ぎつつ新たな流れを作り出す可能性も生まれる。 『No.Ⅰ』収録曲のうち「J」的なポップスの文脈に連なるもの(“Blow Your Cover”や、各人のソロ曲である“Bye 24/7”透明になりたい”Recipe”など)も、日本からしか生まれないかたちでの優れたY2Kリバイバルとみなせる。このように、世界的トレンドの紹介または発展役としての存在感を示すことができるのは、Number_iがアイドル性とアーティスト性の両方を備えているからだろう。こうしたトリックスター性、コアなことをマスに届ける存在感は、2024年を通して高まり続けてきたように思う。そして、その一つの到達点となるのが紅白での“GOAT”披露なのだ。 ※参考記事:記録ずくめのNumber_iのアルバム「No.Ⅰ」は、本気の海外進出の布石となるか Number_iが自身初の「デジタルアルバム」年間1位、TOP5に3作ランクインは史上初【オリコン年間】